「うちの施設では、これ以上は無理です」
「最初は何の話かと思いました。“退去”なんて言葉が出るなんて思ってもみなかったので」
そう語るのは、神奈川県在住の会社員・佐々木洋子さん(仮名・52歳)。話しているのは、実母・美智子さん(仮名・82歳)の介護付き有料老人ホームから連絡があったときのことです。
「母は3年前からその施設に入っていました。年金13万円と、私からの仕送り月3万円で、なんとかやりくりしていたんです。でも最近、軽い認知症の症状や転倒が続いていて、見守りの時間が増えたと聞いていました」
そして先月、施設側から告げられたのが「今後の生活は“他の施設”をご検討いただきたい」という“事実上の退去勧告”でした。
高齢者施設の退去トラブルは、実は全国的に報告されています。「介護サービスの提供が難しくなった」「医療的ケアが必要になった」「家族との連携が取れない」などを理由に、入居継続が困難になるケースがあるためです。
洋子さんの母が暮らしていたのは、医療対応が限定的な中規模の有料老人ホーム。看護師は日中のみの勤務で、夜間は介護士だけ。
「母が夜中に何度もトイレで転倒するようになってから、『常時見守りが必要な方は対応できません』と言われるようになった」と言います。施設からの“お願い”は丁寧でしたが、実質的には退去を迫るものでした。
紹介されたのは、月額20万円を超える医療対応型の老人ホーム。しかし、美智子さんの年金は月13万円。洋子さんも高校生の子どもを育てるシングルマザーで、仕送りの増額は難しい状況です。
「じゃあ母は、次はどこに住めばいいの?って呆然としました。実家はすでに売っていて、うちも狭くて引き取るのは難しい」
途方に暮れた洋子さんは、自治体の高齢者福祉課に相談。ようやく「特養(特別養護老人ホーム)なら低所得でも入れる可能性がある」と教えられましたが、申し込みから実際の入所までには数ヵ月~1年以上かかると説明されました。
