「なんでずっとおばあちゃんの家に?」…甥の何気ない一言
都内近郊に実家のある篠原亮介さん(仮名・40歳)は、メーカー系の技術職に就いて18年。年収はおよそ570万円。浪費を避け、コツコツとインデックス投資と定期預金を続けた結果、40歳の節目を迎えるころには資産が4,000万円を超えていました。
金融広報中央委員会『家計の金融行動に関する世論調査[単身世帯調査](令和5年)』によれば、40歳代単身世帯の金融資産保有額は平均で559万円、中央値ではわずか47万円にとどまっています。一部の高資産者が平均値を押し上げている一方で、多くの人は実際の手元資産が少ないのが実情です。
そうした中、実家での節約生活を続けながら4,000万円を蓄えた篠原さんの存在は、異色とも言えるでしょう。
「一人暮らしをしたことがないことが、密かにコンプレックスでもあったんです。でも、自分の中では“老後に備える”っていう正当な理由があったし、親もとくに出て行けとは言いませんでしたから」
そんなある夏の日、姉夫婦と甥・姪が遊びに来ることになりました。6歳になる甥とは久しぶりの再会。リビングで遊んでいたそのとき、甥が何気なくこう言ったといいます。
「ねえ、おじちゃんって、なんでずっとおばあちゃんの家に住んでるの?」
亮介さんは一瞬固まり、笑ってごまかそうとしました。しかし、胸のどこかに、ずしりと重たい何かが残ったまま、その日は終わったといいます。
「6歳児に悪気なんてないんですよ。でも、たぶん親(=姉)が普段どう話しているか、あるいは幼稚園の友達との何気ない会話のなかで“実家暮らし=変わっている”って刷り込まれているんでしょうね」
貯金はある。仕事も順調。親との関係も悪くない。けれどその一言が、亮介さんの中に小さなひびを生んだといいます。
「心のどこかで、“40歳・独身・実家暮らし”の立場を自分でも下に見ていたんだと思います。積み上げてきたはずの貯金も、“一人で持っているだけ”という虚しさがあって…。あの日は正直、来てほしくなかったなって思ってしまいました」
