「これ、全部自分で貯めたんです」
東京近郊のUR賃貸団地で一人暮らしをしている佐伯直子さん(仮名・72歳)は、団地在住歴25年。自宅には贅沢な家具や家電はなく、昭和から使い続けている炊飯器や扇風機が部屋に並んでいます。
「冷蔵庫? もう15年目かな。まだ動くから買い替えませんよ」
そんな佐伯さんが、近所のスーパーで買い物をする姿もまた質素そのもの。ポイント5倍の日を狙い、特売の納豆や豆腐をまとめ買い。外食は年に数回ほど、洋服もほとんど買い足さないといいます。
ところがある日、娘夫婦がふとしたきっかけで母の通帳を目にして驚きました。
「……お母さん、これ……。え? 0が……多くない?」
なんと通帳には、定期預金だけで8,000万円以上の残高が。さらに投資信託や国債なども合わせると、総資産はおよそ1億8,000万円にのぼっていたのです。
佐伯さんは40代まで食品メーカーの事務パートとして働いていました。正社員ではなかったものの、夫の厚生年金と自分の国民年金を組み合わせれば、老後の最低限の生活には困らないと考えていたといいます。
「お金がないから節約していた、というより、使わなくても平気だったんです。旅行にも行かないし、お酒もたばこもやらない。友達とお金を使う遊びもなかった。使わないと、それが“普通”になっていくんですよね」
加えて、生活費のやりくりで浮いた分は毎月少額でもコツコツと貯金。利率が高かった時代には、郵便局の定額貯金や財形貯蓄制度も利用してきました。
「昔は、定期に預けるだけで5〜6%利息がついたからね。子育てが終わったら“第二の貯金期”だと思って、必死にためましたよ」
