「おばあちゃん、お金ないと思っていたけど…」
「えっ、何これ……」
70代で亡くなった祖母の部屋を整理していた際、千尋さん(仮名・38歳)が手にしたのは、1冊の古い通帳でした。そこには、預金残高が800万円近く記載されており、しかも解約された形跡もありませんでした。
「年金月10万円くらいで細々と暮らしていたし、たまに援助もしていた。だから全然気づかなかったんです」
祖母・良子さん(仮名)は、年金以外に目立った収入はなく、生活スタイルも質素そのものでした。買い物は週1回、洋服は何年も同じものを着まわしていたといいます。親族も「お金には苦労していると思っていた」と口を揃えました。
その後、遺品整理を進めるなかで見つかったのは、別の金融機関の通帳と定期預金の証書。合計額は1,800万円に達していました。
「正直、信じられませんでした。祖母は“あんたたちに迷惑かけないように”ってよく言っていたけど、まさかこんなに貯めていたなんて」
しかも、良子さんは亡くなる数年前に、息子名義で生命保険に加入していた形跡もあったといいます。掛け金はわずかでしたが、死亡保険金は200万円。千尋さんは「最後の最後まで自分のことより周囲を思っていたんだな」と、静かに目を伏せました。
良子さんが通帳の存在を語らなかった理由は、家族にも明かされることはありませんでした。ただ、生前の発言や生活態度から、「介護や入院など、いざというときのために備えていたのでは」と親族は話します。
また、本人が判断能力を失った後に備えて、子や孫に任せるための「エンディングノート」や「任意後見契約」なども検討していた形跡が、書きかけのメモから見つかりました。
