パターンC:iDeCo
コスト面や月額掛け金の上限額において、企業型DCと比べて劣後するものではありますが、企業型DCの場合は、転職する場合にはこれまで投資してきた投資信託を一旦(いったん)売却し、新しい雇用主が有している企業型DCのラインナップから選び直すという手間が発生するのに対して、個人のiDeCoは何ら影響を受けません。
一方で、iDeCoの企業型DCに対するデメリットとして指摘されることは、iDeCoの場合、年末調整や確定申告において所得税の還付が発生することで個人や企業に事務負担が発生するのに加えて、受け取った還付分について複利効果が得られないということです。また、iDeCoでは企業型DCのような事業主が用意してくれている金融教育はセットされていないので、自らが選ぶ投資信託の情報を自分で取りに行く必要があります。
パターンD:NISA〜一族全員NISA戦略~
NISAは企業型DCやiDeCoほどの税制メリットはないですが、資産運用をサポートする制度としては素晴らしいものです。NISAはNippon Individual Saving Accountの頭文字を取った略であり、いわば普段使いするための「貯蓄口座」です。流動性も高いので銀行預金のように気軽に使えばいいと思います。
企業型DCやiDeCoは所得税を支払う義務のある勤労者のみメリットを受けることができる制度ですが、その点、NISAは勤労者以外の人も含めたすべての成人を対象に、金融商品の運用益が非課税になるという広範なメリットがあります。1人当たり平均個人金融資産が1400万円程度の日本において、1800万円の金融資産に対する金融所得課税の無税制度は、規模的にもかなり大きいと言えるでしょう。
金融資産が5000万円以上、1億円以上あるようなかなりの富裕層向けに話す時に、筆者が提唱しているものが、NISAを利用した戦略的な贈与ともいえる、「一族全員NISA戦略」です。
財政が危機的な状況にある現在の日本では、金融所得課税の増税が進む可能性が指摘されています。このような状況を踏まえれば、たとえば、80歳の富裕高齢者ご自身が、1800万円の無税枠を最短である5年で埋めることは当然の行動となります。なぜなら、そうしなければこの1800万円という金融資産にかかる税金が今後増えることが予想されるからです。
次に考えるべきは、これは筆者の造語なのですが、親族への「NISA枠贈与」です。たとえば80歳の富裕高齢者に18歳の孫がいて、その孫に対して年間360万円を5年間贈与し、孫のNISAを設定します(NISAの1人当たり上限1800万円)。5年後以降、その孫がNISA非課税枠の1800万円で亡くなるまで資産運用するとします。
このケースでは当然に贈与税を5年間支払う必要が発生します。しかし、その贈与税負担よりも、その孫が23歳になってから亡くなるまでの60年以上運用するであろう間に発生する金融所得税がゼロになることによるメリットの方が圧倒的に大きいといえます。税理士などに相談する必要がありますが、贈与額を年間110万円以下に抑えることで、贈与税の負担を抑えることもできるかもしれません。
さらに、NISA無税枠の贈与を孫だけに限定せず、「自分のことを気にかけてくれる娘婿」などの広義の家族にも範囲を広げることも考えられます。NISAを通じて無税で長期投資を行うことで、家族全体の資産形成を強化することができるのです。
このように、家族全体で戦略的にNISAを活用することで、資産を効率よく移転しながら家族全体の納税額を最小限に抑える戦略、それが「一族全員NISA戦略」なのです。もしかしたら「親族」に範囲を限定することすらないかもしれません。そんなに資産のある人が羨ましいですが……。
実は、この戦略にはお金以上にメリットがあると考えています。NISAを活用した贈与は、単に資産を受け渡すだけでなく、「長期投資」という哲学を次世代に相続することにもつながります。長期投資の考え方を伝えることは、孫や親族の人生観に大きな影響を与えます。つまり「一族全員NISA戦略」は彼らの経済的な自立や資産形成への意識を高めるばかりではなく、あなたの「生き様」を孫や親族に伝えることに直結するのです。
奥野 一成
投資信託「おおぶね」 ファンドマネージャー
農林中金バリューインベストメンツ株式会社(NVIC)
常務取締役兼最高投資責任者(CIO)
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