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「関税」を様々な目的に使うトランプ大統領
一般的に「関税」は、国内産業の保護・財政収入・貿易収支改善のために使われます。しかし、ロシアに「二次制裁関税を課す」としたように、トランプ大統領は関税を、相手国を取引(交渉)の場に強引に引きずりだす手段としても使っています。
たとえば、2025年1月の就任早々にトランプ大統領は、コロンビアからの全輸入製品に対して、即時に25%、1週間後には50%の関税を賦課すると発表しました。この措置は、アメリカへの不法入国者を本国送還するための航空便について、コロンビアのグスタボ・ペトロ大統領が、その受け入れを拒否したことが原因だといわれています。
「アメリカ・メキシコ・カナダ協定」(USMCA)を締結しているカナダやメキシコに対しても、トランプ大統領は2025年7月に、30%の追加関税を課すと通告しました。これは、合成麻薬のフェンタニル流入防止が目的だといわれています。
2025年7月には、ブラジル製品に対して50%関税を課すと発表しました。これは、「ブラジルのトランプ」と呼ばれたボルソナロ前大統領が、大統領選挙に不正があると主張し、その結果を覆そうとクーデターを企てた罪などで起訴されたことへの報復措置だといわれています。ボルソナロ前大統領について、トランプ大統領は「世界中で高く尊敬された指導者だ」と評価しているのです。
「カスタマー」を見ればトランプ大統領がわかる
自信たっぷりなトランプ大統領は、日本人からすると「何をしでかすかわからない人」にも見えます。しかし、トランプ大統領はアメリカの変化の方向を示している人物だと指摘する意見があるのも事実です。そんなトランプ大統領をキーワードとなる「カスタマー」の切り口から紐解きます。
トランプ大統領とその支持者層である「カスタマー」
あるビジネスコンサルタントとワシントンで話をしていた時のことです。筆者の友人である米オハイオ州立ヤングスタウン大学教授から紹介されたのですが、その彼が言うには、トランプ大統領だけを見ていてもアメリカはわからない。アメリカをざっくりと見るだけでもダメだというのです。
そして、アメリカがどちらの方向に進むのかを知るためには、トランプ大統領が言う「カスタマー」を見ることが重要だと指摘したのです。「カスタマー」とは「有権者」、特にトランプ大統領の支持層のことです。
トランプ大統領についての彼の見解は、おおむね次のようなものでした。
要するに、トランプ大統領が結局は何をしたいのかは、「カスタマー」を見ることによってよく理解できるというのです。
しかし、問題が一つあります。それは、「カスタマー」は常に少しずつ変化していることです。つまり、私たちは「変化するカスタマー」を見なければいけないことになるため、事はそれほど簡単な話ではないのかもしれません。
トランプ大統領の「カスタマー」の多くは必ずしも金持ちだけではありません。2024年の大統領選挙では、所得税減税、残業代・ウェイトレスのチップなどの非課税化、年金負担の軽減を公約として掲げました。そこで、インフレや増税に苦しむ人たちがトランプ大統領の「カスタマー」になりました。彼らの多くは、もとは民主党支持者だったと思われます。こうした支持を背景に、就任後のトランプ大統領がOBBBA(※)を成立させたことはすでに触れた通りです。
また、トランプ大統領は、アメリカで犯罪が多発するのは犯罪者を含む不法移民のせいだと主張します。それに賛同する人たちもトランプ大統領の「カスタマー」になりました。さらに、バイデン前大統領は、ウクライナやガザ地区での戦争をやめさせることはできませんでしたが、トランプ大統領は停戦を実現できたとして、「カスタマー」になった人もいます。
企業家や投資家、規制緩和反対派、小さな政府を求める人たちは、もともとの共和党支持者です。リベラルな政党であるバイデン政権下では、規制が厳しく、独占禁止法も頻繁に発動されました。そんなことを繰り返していては、アメリカは世界での競争に負けてしまう。DEIはアメリカが競争で勝てない要因になっている――そういう考えを抱くビジネスマンは少なからずいたと思います。
アメリカ社会は、民主党にしても共和党にしても、もともとの支持者だけでは大統領選挙に勝つことができない人口構成になっています。トランプ氏が共和党の大統領候補になり、大統領選で勝利したのは、今までの伝統的な共和党の考え方とは違う人たち、黒人やヒスパニック、鉄鋼業界や自動車業界で働く労働者、そして女性を取り込んだからだったのです。
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