いったいいつから年金を受け取れる?
次は、年金についても見てみましょう。日本の公的年金は、皆で暮らしを支え合うしくみです。若いときから一定の額を支払い続ければ、定年退職後などにお金を受け取ることができます。そうなるといつまでお金を払うのか、そしていつから受け取れるのかが大切になってきますが、ここでも改悪が続いています。
年金を受け取れる時期がどんどん遅くなっているのです。支給開始年齢は、1944年には55歳でしたが、1954年には60歳(女性は55歳)に。現在は原則65歳と徐々に引き上げられています。
こうした傾向を見ると、今後も引き上げられる可能性も十分あり得ます。受け取るのが遅くなるということは、それまでの間の収入を確保しなければいけません。そこで「いつまで今の会社で働けるのか」、いわゆる定年退職の年齢が気になってくることでしょう。
2025年4月1日から、企業には65歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)を導入することが義務づけられました。企業は65歳まで定年を引き上げるか、定年制を廃止するかを選ぶことになります。
一見、私たちにとっては長く働けるということで、いい話です。年金を受け取るのが遅くなる分、長く働きたいのですから当然ですね。
定年延長の落とし穴とは
しかし、これも手放しでは喜べません。というのも、この制度は65歳の定年を義務化するものではなく、65歳までの雇用機会提供を義務づけるものに過ぎないためです。
なんとも紛らわしいのですが、平たく言えば企業は60歳を過ぎても雇ってさえいればよくて、給与は下げてもいいよ、ということです。これでは私たちが継続して働けるとはいえ、収入が減ってしまう可能性が高く、安心するにはほど遠いでしょう。
なお、こうした収入減のリスクを軽くするために、雇用保険法に基づく「高年齢雇用継続給付」という制度がありました。これは定年後も労働を続ける65歳未満の人を対象にしたもので、賃金が60歳のときと比べて75%未満に下がったとき、支給される給付金です。
しかし困ったことに、2025年4月からこの高年齢雇用継続給付が縮小されています。60歳時点よりも給与を下げられた場合の補填条件が悪化し、最大給付率が15%から10%に減少。さらに残念なことに、この制度自体が、将来廃止されることがすでに決まっているのです。
ここまで、私たちを取り巻く状況について見てきましたが、いかがでしょうか。トータルで考えると、私たちはより厳しい状況に置かれることこそあれ、改善する見込みはほとんどないことが、お分かりいただけたのではないでしょうか。
「国がなんとかしてくれる」といった考えは幻想に過ぎず、そうした他力本願は問題を先送りするだけで、貴重なあなたの時間をどんどん浪費してしまいます。自分と家族を守るお金は、自分自身の力で維持し、増やしていくしかない。それが、私たちが置かれた現在地点なのです。
永江将典
公認会計士・税理士
