『鬼滅の刃』の歴代興収トップ2独占と、14年連続プラス成長確実のJRA…2大エンタメが牽引する「サービス消費」の底堅さ【解説:エコノミスト宅森昭吉氏】

景気の予告信号灯としての身近なデータ(2025年10月16日)

『鬼滅の刃』の歴代興収トップ2独占と、14年連続プラス成長確実のJRA…2大エンタメが牽引する「サービス消費」の底堅さ【解説:エコノミスト宅森昭吉氏】
(※画像はイメージです/PIXTA)

日本の第3次産業の活動水準が、ようやくコロナ禍前のレベルで安定してきました。しかしその内訳を詳しくみると、業種による回復ペースの差も浮き彫りになります。なかでも、ひときわ力強い回復を見せているのが「映画」と「競馬」です。記録的なヒット作に沸く映画館と、14年連続の売上増が目前に迫るJRA。この2大エンタメの活況から、日本経済の底堅さを支えるサービス消費のリアルな姿をエコノミスト・宅森昭吉氏が分析します。

第3次産業はコロナ前水準に…回復を牽引した「映画館」と「競馬場」の驚異的な復活劇

8月第3次産業活動指数の第3次産業総合は104.3、5ヵ月連続104台。月次データで104以上はコロナ前の2019年。

 

9月16日に2025年8月第3次産業活動指数が発表されました。2019年と2020年の平均を100とした指数でみると、8月の第3次産業総合は104.3です。前月比▲0.4%ですが、5ヵ月連続104台になりました。

 

2024年より前に月次データで104以上になったのはコロナ前の2019年。コロナ前の2018年からの第3次産業総合の推移をみると、新型コロナウイルスの影響で2020年に落ち込んだことがわかります。しかし、厳しい環境下でも、映画館や競馬場では早くも2020年に明るい兆しがみえました。

 

映画館の2020年の持ち直しは、2020年10月16日に劇場公開の『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』大ヒットが大きかったと思われます。人気アニメの続編の映画という作品の魅力などに加え、新型コロナ感染防止対策に気を配り、観客の不安解消にあたった映画館の関係者の努力も大きいでしょう。コロナ禍で邦画・洋画とも新たな作品供給が難しい局面でハリウッド映画が不在のなか、シネマコンプレックスでスクリーン数と上映回数を最大限まで引き上げた戦略も奏功しました。

 

2025年6月の季節調整済み指数は114.3と、映画館は15ヵ月ぶりに100超となり、7月140.7と8月125.7と高水準です。最近の山は、『国宝』と『劇場版「鬼滅の刃」無限城編・第一章・猗窩座再来』の大ヒットによるところが大きいと思われます。

 

競馬場も2020年には新型コロナウイルスの影響を大きく受け、一時は落ち込んだものの、早期に持ち直しました。第3次産業活動指数の競馬場は、2020年の指数は5月から100台に戻しています。その後現在まで、おおむね緩やかな増加が継続。2025年8月の指数は128.4としっかりした水準が続いています。

 

2020年のJRA売得金・年初からの累計金額の前年比がマイナスに転じたのは2月29日から無観客レースとなった3月1日までの週です。そこから入場者は週を追うごとにマイナス幅を拡大し、上半期の最終週で6月28日の週の累計で前年比▲74.4%になりました。一方、売得金はネット(ごく一部が電話)でしか馬券が購入できなくなったため、当初は減少傾向で5月3日の週までの累計で▲6.2%まで悪化。しかし、そこから改善し、上半期最後の6月28日までの週の累計では前年比▲3.2%まで戻しました。

 

8月9日までの週の累計では前年比+0.5%と増加に転じています。コロナ禍の中で無観客レースを強いられるなかでも、ネット販売を中心として、しっかり売上を増加基調に戻したのです。新型コロナウイルスの感染拡大防止と経済の両立が成立したかたちです。

 

結果として、2020年は開催場入場人員の前年比は▲84.1%であったのにもかかわらず、JRA売得金の前年比は+3.5%とプラスの伸びになりました。

 

出所:経済産業省
[図表1]映画館・競馬場(第3次産業活動指数)の推移 出所:経済産業省

 

歴代興収ランク更新、景気判断DIは75.0…「映画館特需」の影響力

10月12日現在の歴代映画興行収入ランキングで、『鬼滅の刃』は第1位・第2位。第14位の『国宝』は9月26日現在の第17位からランクアップ。「映画」関連現状判断DIは8月・9月連続で75.0に。

 

『劇場版「鬼滅の刃」無限城編・第一章・猗窩座再来』や『国宝』いった映画が引き続き好調で、累計興行収入などが話題になっています。10月12日現在、『劇場版「鬼滅の刃」無限城編・第一章・猗窩座再来』の累計興行収入が364.1億円(動員2,511万人)に達し、歴代ランキングの第2位となりました。これにより、歴代1位の『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(2020年公開/興収407.5億円)と合わせ、『鬼滅の刃』シリーズが興行収入ランキングの1位・2位を独占する形となっています。

 

第14位の『国宝』は、9月26日現在第17位でしたが、10月5日現在で第15位とこのところ毎週のようにランクアップしています。

 

8月景気ウォッチャー調査では、「映画」関連現状判断DIが75.0になりました。「今月は、当館では映画館での複数の話題作が好調を維持しており、全体的に好影響を与え特需となっている。特に作品の関連グッズを取り扱う雑貨店舗や飲食店には明確に波及効果が出ているが、その一方で、店舗数の純減もあるため一概にはいえないものの、アパレル業種が前年を下回る推移である」と九州のショッピングセンター・支配人のコメントがありました。

 

9月の景気ウォッチャー調査では「映画」関連現状判断DIは8月に続き、75.0です。「小売チェーンでのタオルの販売は低迷しており、従来の状況に変化はないが、大阪・関西万博会場での売上は絶好調なほか、プロ野球関連での別注タオルの販売も好調である。さらに、映画館での入込客の増加により、館内の売店での販売が大きく増え、売上は大きく伸びている」と近畿の、その他非製造業[衣服卸]・経営者のコメントがありました。

 

出所:興行通信社など
[図表2]映画興行収入ランキング 出所:興行通信社など
※2025年10月12日現在

JRA売上は「景気の鏡」…GDPとの高い相関、14年連続のプラス成長へ

JRA売得金・年初からの累計前年比、10月13日までで+4.4%。14年連続前年比は増加になりそうな状況。

 

JRA売得金・年初からの累計前年比、10月13日までで+4.4%になりました。14年連続前年比は増加になりそうな状況です。景気がよく、懐具合がいいときは競馬の売得金も伸びるようです。

 

平成・令和の35年間(平成元年・1989 年~令和6年・2024年)での名目GDP前年比と売得金前年比の相関係数は0.71です。最近のJRA売得金・年初からの累計前年比は9月28日までで+3.2%でしたが、10月5日までで+3.5%、10月13日までで+4.4%と増加率が高まってきています。

 

出所:JRA
[図表3]JRA・売得金・前年比推移 出所:JRA

 

※なお、本投稿は情報提供を目的としており、金融取引などを提案するものではありません。

 

 

宅森 昭吉(景気探検家・エコノミスト)

三井銀行で東京支店勤務後エコノミスト業務。さくら証券発足時にチーフエコノミスト。さくら投信投資顧問、三井住友アセットマネジメント、三井住友DSアセットマネジメントでもチーフエコノミスト。23年4月からフリー。景気探検家として活動。現在、ESPフォーキャスト調査委員会委員等。

 

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