老後は贅沢さえしなければ暮らしていけた!?
これまで日本の高齢者は、さまざまな面で恵まれていました。
まずは収入の面です。厚生労働省の資料「平成8年度社会保険事業の概況」によると、1996年における平均年金受給額は、国民年金が5万328円、厚生年金が17万825円でした。サラリーマンの夫(厚生年金を受給)と専業主婦の妻(国民年金を受給)という一般的な組み合わせの高齢夫婦の場合、月22万円前後の年金が期待できました。
一方、1996年当時の大卒初任給は約19万3200円(厚生労働省「賃金構造基本統計調査」より)。つまり、20年前の高齢者夫婦は、大卒サラリーマンを上回る年金を受け取る人がかなり多かったということです。
次に、医療費の面では、高度経済成長がピークに差しかかり、税収がグングン伸びていた1973年、田中角栄内閣は老人福祉法の改正に踏み切りました。それまでは、本人が国民健康保険に加入している高齢者(70歳以上)の場合、医療費の自己負担割合は3割に。本人以外の家族が加入している場合は、5割負担と決められていました。ところが、この法改正によって70歳以上(寝たきりの場合は65歳以上)の高齢者は医療費が無料になったのです。
その後、高齢者が増えて国の医療費がふくれあがるのにつれて、高齢者にも医療費の自己負担が求められるようになりました。しかし、医療費の自己負担額は上限が決められており、外来の場合は月に数百~2000円程度、入院の場合は1日数百~1000円程度といった金額に設定されており、医療費の負担がさほど重くないという状況は変わりませんでした。
これらのことから、2000年くらいまでの日本では、老後は贅沢さえしなければ、なんとか暮らしていけるという高齢者にとって非常に幸せな状況が生まれていたのです。
20世紀後半の27年間で2.7倍に増えた65歳以上の人口
こうした状況に変化が現れたのは、2000年前後のことでした。
前述の通り現代の日本では高齢化が急速に進んでいます。1973年当時、日本の総人口に占める高齢者(65歳以上)の人口は816万人にすぎませんでしたが、2000年には2201万人に達しています。わずか27年間で、高齢者の数は2.7倍にふくれあがったわけです。
高齢者が増えれば、その分、体調が悪くなって病院にかかる人の数も増えます。厚生労働省の「平成25年度国民医療費の概況」によれば、1973年度の国民医療費は3兆9496億円でした。一方、2000年には30兆1418億円となり医療費が8倍近くにもふくれあがったのです。
30兆1418億円のうち、約16兆円は健康保険によってまかなわれ、約4兆円は患者の自己負担分です。そして、残りの約10兆円は国と地方自治体の負担となっているのです。
【図表】 国民医療費・対国内総生産(GDP)および対国民所得比率の推移