制度の背景――創設から特例措置まで
事業承継税制は2009年に創設。当初は対象株式が3分の2に制限され、納税猶予も80%までという厳格な条件で、利用は限られていた。そこで2018年度の税制改正で導入されたのが「特例措置」である。
この特例では、対象株式は全株式に拡大され、納税猶予も100%に。さらに雇用確保要件が緩和され、制度は大幅に利用しやすくなった。承継を具体的に進める経営者が増加し、現場からは「特例がなければ廃業していた」という声も上がっている。中小企業の存続と地域経済の支えに、大きく貢献してきたといえる。
迫る「2027年の崖」
この特例措置は2027年12月末で終了する時限制度だ。特例承継計画の提出期限も2026年3月末に迫っており、それ以降は制度が一般措置に戻る。そうなると、対象株式は再び3分の2に縮小、納税猶予も80%に後退。雇用要件も厳格化される。
経営者にとっては、「承継」か「廃業」かを迫られる大きな分岐点となる。日商はこれを「2027年の崖」と呼び、制度維持の必要性を強く訴えている。
日商の要望――恒久化と制度拡充
意見書で日商が掲げた主な要望は以下の通り。
●特例措置の恒久化、または少なくとも期限延長
●対象株式の拡大(総株式数の最大3分の2まで→全株式)
●納税猶予割合の拡大(相続の場合80%→100%)
●後継者人数の拡大(現行1名→最大3名)
●雇用確保要件の弾力化(承継後5年間で平均8割の雇用維持→実質撤廃)
●売却・廃業時の免除措置導入
●年次報告不要化など事務負担の軽減
日商は「中小企業の経営者が、過大な相続税・贈与税負担のために自社株の評価を下げようとする事例も見受けられる。しかし、こうしたことは、本来自社の成長のために投じられるべき資金や意欲を削ぎ、中小企業の活力を奪うことにつながる。また、過大な税負担のために経営資源が毀損し経営が傾いたり、後継者が承継する意欲を失って廃業につながれば、地域における良質な雇用の喪失や地域経済の停滞を招く」と警鐘を鳴らし、特例措置の継続もしくは恒久化こそ、地方創生や日本経済の持続的成長の前提であると強調する。
公平性と制度格差
一方で課題も残る。事業承継税制は本来「救済策」として導入されたが、資産移転の優遇策と見られる側面もある。また、制度を「使える企業」と「使えない企業」の格差が広がるとの指摘もある。
さらに、中小企業の承継は親族内承継だけでなく、M&Aや従業員承継など多様化しているが、こうしたケースに十分対応できていない点も課題だ。
今後の展望――税制改正大綱と成長戦略
2027年まで残り2年余り。政府税調や与党税調では、特例の恒久化か延長かが議論の焦点となる。2025年度の税制改正大綱の策定に向け、議論が本格化しており、日商の意見も大綱に反映されるかが注目される。承継に伴う納税負担が重くのしかかれば、後継者不足や廃業の増加は避けられない。
地域金融機関や自治体が関与する第三者承継の支援策も含め、制度を「救済策」から「成長戦略」へと進化させられるかが問われている。単なる期限延長ではなく、中小企業の持続的成長と地域経済の未来を見据えた制度設計が、政府税調や与党税調で盛り込まれるかに注目したい。
THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班
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