信託登記、5年で倍増の理由
日本の高齢者における認知症患者数が増加するなか、成年後見制度を利用せず、家族が財産管理や相続対策を行う「家族信託」の活用が広がっている。不動産の信託登記件数は2023年には前年比で116%増加しており、過去5年間で約2倍に増えている。
税理士法人奥村会計事務所代表の奥村眞吾税理士は、次のように指摘する。
「厚労省の推計では、潜在的な患者を含めれば認知症患者は近々700万人に達する。日本では一旦『認知症』と診断されると、契約・運転・保険加入ができず、事実上“人権を失う”状態になる」
こうした背景が、認知症発症前に財産管理の手立てを講じようとする動きを強めているのだ。
銀行口座の「凍結リスク」で注目される家族信託
成年後見制度は、弁護士や司法書士などの後見人が財産管理や詐欺防止を担う仕組みだが、後見人による財産の使い込み事件や制度の煩雑さが敬遠される一因となっている。加えて、相続税対策に対応できない点も大きな課題だ。
奥村税理士は、「成年後見制度では積極的な相続税対策ができず、借金してアパートを建てるといった節税策は認知症になったあとは不可能」「しかも、後見人による財産の使い込みが起きるリスクもある」と指摘する。
こうした課題を背景に注目されるのが「家族信託」だ。家族信託は、親(委託者)の財産を子や孫(受託者)が管理・運用し、生前から相続税対策を行える仕組みである。だが、活用にあたっては注意点もあるようだ。
「一般の信託は信託報酬が高額だが、家族が受託者になれば報酬は不要。ただし信託法に基づいて運用されるため、専門知識がなければトラブルにつながる。実印や通帳を預かった家族が財産を混同してしまう事例も少なくない」(奥村税理士)
米国に見る信託活用
アメリカでは40歳を過ぎると、信託会社や弁護士を受託者として財産を信託する「Living Trust」が広く利用されている。相続が発生すれば財産がスムーズに承継される仕組みである。
奥村税理士はアメリカ・カリフォルニアにも事務所を構えるなどアメリカの信託についても精通しているが、「米国では、遺言を書いても相続人に財産が渡るのに数年かかるため、信託が合理的。金融機関では認知症の有無を問わず、サインができれば契約が成立する点も日本と大きく異なる」と指摘のうえ、「日本では家族信託でも遺留分を侵害すれば無効になるが、米国では多くの州で配偶者以外の遺留分を認めていないため、自由度が高い」と、その違いを強調する。
専門家の助言が不可欠
日本でも家族信託を活用することで、相続争いの回避や税務トラブル防止が期待されている。ただし、信託は「信託法」に基づいて運用されるため、専門知識のないまま始めるとトラブルの原因となりかねない。
奥村税理士が「欧米では数百年の歴史を持つ信託制度と比べ、日本の制度はまだ数十年。自由度の低さや未成熟さを理解したうえで、専門家の助言が不可欠」と注意喚起するように、専門家の視点による設計が必要だといえるだろう。
THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班
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