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妻の長期計画「離婚積立」とは？
恵美子さんは結婚生活の早い段階から、夫への嫌悪感を「子どもが独立するまで耐え忍ぶ」ための試練と捉えていました。その精神的な支えとなったのが、離婚積立でした。
「私のパート代はすべて家計に入れていたと思っていたでしょう？ いいえ。毎月、ずっと別の口座に貯金していたのよ」
その金額は、なんと700万円も上ります。しかし、離婚をするとなれば、その貯金も結婚期間中の夫婦の共有財産とみなされ、分割することになります。
「法律的には、その通り。でも、この700万円は精神安定剤のようなもの。いざとなれば、このお金を持って逃げようって。そういう思いが、私をここまで支えてくれたの」
恵美子さんの淡々とした告白。正さんが定年というゴールを迎えたのと同時に、妻は新しい人生のスタートラインに立っていたのです。
離婚後の生活設計：財産分与と年金分割
恵美子さんが離婚を決意し、実行に移した背景には、経済的な準備と老後の制度の理解がありました。実は、早い段階で弁護士に相談し、アドバイスを受けていたといいます。
1. 財産分与
夫婦の共有財産は、原則として2分の1ずつに分けられます。 この夫婦の場合の共有財産は、以下のようになります。
・世帯貯蓄：1,800万円
・妻の離婚積立：700万円
合計：2,500万円
特有財産（相続・贈与など）がないと仮定した場合、この2,500万円が分与の対象となり、原則として妻と夫に1,250万円ずつ分けられることになります。
妻の「離婚積立」も財産分与の対象とはなりますが、妻はそれを織り込み済みで計画を進めていました。むしろ、世帯貯蓄が予定通りあったことが、妻の長期計画の成功を意味します。
2. 驚きの提案「家は置いていく」
さらに恵美子さんは、正さんを驚かせる提案をします。
「家はあなたに残しますね。私はこのお金と、あなたの年金の一部で、静かなアパートで暮らします」
自宅も共有財産であり、本来なら正さんは家の価値の半分を恵美子さんに代償金として支払う必要があります。しかし、恵美子さんは代償金を求めず、住居の権利を放棄することで、代わりにスムーズな離婚の成立を目指しました。正さんにとっては、住み慣れた家を失う心配がなくなり、離婚に応じる大きな動機となります。
3. 年金分割
熟年離婚において、現金・貯蓄の分与以上に重要なのが年金分割です。婚姻期間中、正さんが会社員として加入していた厚生年金の保険料納付記録は、夫婦で分割することになります（原則50％）。
この分割により、月々およそ16万円の正さんの年金から、恵美子さんの受給額が計算されることになります。
「さよなら」のその先へ
「あなたへの感謝もあるわ。だから、昨晩はそのお礼をしたのよ。でも、あれで終わりです。これからは我慢せずに残りの人生を生きる。それが私の『老後の夢』です」
長年、我慢しながら「子どものため」「世間体のため」と自分を押し殺して生きてきた恵美子さん。一方、 何も知らず、老後の平穏を信じていた正さん。彼の第二の人生は、予期せぬ形で、そして想像を絶する孤独な形で幕を開けたのです。
「まさか、自分の妻がそんなことを……」
正さんにとっての「青天の霹靂」と、恵美子さんにとっての「長期計画の完了」という視ギャップは、多くの夫婦が直面し得る深刻な問題を教えてくれます。
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