(※写真はイメージです/PIXTA)

「第二の人生は、海が見える町でのんびりと」そんな理想を描き、都市部から地方へ移住する高齢夫婦がいます。しかし、現実の移住生活は甘くありません。医療や交通インフラへの不安、地域コミュニティとの摩擦、そして老々介護の始まりなど――本記事では、「海辺のまち」に引っ越した70歳夫婦の1年後の姿を、長男の視点から見ていきます。

制度はある、でも「助けを呼べない」高齢者たち

健太さんの前で、母は「そろそろ誰かに来てもらったほうがいいのかも」とつぶやきました。介護保険制度を利用すれば、要支援・要介護の認定を受けたうえで訪問介護やデイサービスが利用できます。

 

しかし、最寄りの包括支援センターまでの距離が遠く、本人たちも「どこに相談していいかわからない」と話していました。

 

また、地域包括ケアシステムが整備されている都市部とは異なり、地方では人手や資源の不足から、支援が行き届かないエリアもあります。

 

帰り際、母はぽつりとこう言いました。

 

「本当はね、孫の声が聞きたくて仕方なかったの。でも、みんな忙しいし、こっちに呼ぶのも悪い気がして」

 

それが、両親の“理想の終の棲家”に秘められていた、たったひとつの願いでした。

 

「元気なうちにやりたいことを」――その言葉の裏には、「誰にも迷惑をかけたくない」という親心と、「でも、誰かにそばにいてほしい」という本音が隠れていたのです。

 

高齢期の移住は、資金面だけでなく、地域性・健康・家族関係など、多くの視点から慎重に検討すべきです。夢を叶える移住が、「静かな孤独」に変わってしまうこともある――そんな現実を、子世代も知っておく必要があるのかもしれません。

 

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