1億円の資産で念願のFIREを達成。自由を得たはずが…
いったい何歳まで働くのか――。65歳どころか70歳以上になっても働く人も少なくない現代、多くの人が抱える問いです。
毎朝早起きして満員電車に揺られ、職場でのプレッシャーに耐え、夜遅く帰宅する日々。「こんな人生でいいのか」と考えたことは、誰にでもあるでしょう。
まさに、そんな毎日にウンザリしていたという元会社員のAさん(41歳)。20代の時から「できるだけ早く自由になりたい」とFIRE(Financial Independence, Retire Early)を目指しました。
資産運用や節約、親からの相続も加え、40代に入り、ついに1億円の資産を形成。これで仕事を辞められる――そう考えたのです。
Aさんの妻は看護師として働き続けることに生きがいを持っており、仕事を辞める気はありませんでした。娘を保育園に預けながら仕事と家庭を両立していましたが、その負担は少なくありません。
そこでAさんは自分が退職し、「主夫」として家事や子育てを担当すると宣言しました。「無理だと思うよ」と懐疑的な妻でしたが、その役割分担でやってみようということになったのです。
しかし、実際に退職してその生活を始めてみると、想定外の壁が待っていました。仕事をしないという解放感はありましたが、家事や子育てを一手に担う生活は想像以上に大変でした。
日々の食事、掃除、洗濯、子どもの学校や習い事の調整――思っていた以上に体力も時間も奪われます。「主婦をなめていました」Aさんは振り返ります。
かといって、何にもしないでいるだけでは、家庭の中での存在感は希薄。資産があるだけでは、家族の一員として認められるわけではありません。Aさんは、自分がいかに家庭の役割を甘く見ていたかを痛感しました。
妻との会話でその思いを打ち明けると、妻はこう言いました。
「少し働きながら、主婦業も手伝ってもらって、資産運用も続けるのが一番いいんじゃない?」
完全な無職では家族との関係や自分の生活リズムが保てない。かといって、過剰に働く必要もない。家庭、仕事、資産運用――三つの軸をほどよく回すことこそ、生活と心のバランスを保つ最適解だと。
