今回は、「定年後の生き方」は、いつから考えておくべきかを探ります。※本連載は、作家、ビジネス評論家、テレビコメンテーターとして活躍する江上剛氏の著書、『働き方という病』(徳間書店)の中から一部を抜粋し、論語で示された孔子の言葉をヒントに、仕事上で直面するさまざまな問題に立ち向かう方法を探ります。

「定年」が頭をよぎるのは、どういうときだろうか?

私自身の経験から言うと、何も考えていなかった。現役中は、自分の頭に「定年」という言葉が浮かんだことはなかった。多くの人が、私と同じではないだろうか。会社に入った時に、定年のことを考えている人はいないだろう。

 

定年が頭をよぎるのは、どういうときだろうか。出世を諦め、競争社会である会社の中に希望を見出せなくなったときだろうか。このまま、不遇のままで定年を迎えるのかと、嘆息混じりで呟くこともあるだろう。

 

あるいは結婚して美しい妻をめとり、可愛い子供が生まれたときだろうか。妻のため、子供のために定年まで無事に勤めねばならないと心に誓う。結婚して、子供ができたために守りに入るか、もっと出世するために頑張るか、そのどちらを選択するにしても、定年を意識した行動になるだろう。

周囲の人々の幸せなイメージを思い描く

閑話休題。孔子が、4人の弟子たちに、もしあなた方の力が認められたら何をするかと尋ねたことがある。

 

4人は、それぞれの思いを述べたのだが、孔子が賛成したのは次の様な答えだ。

 

「莫春には春服既に成り、冠者五六人、童子六七人、沂に浴し、舞雩に風し、詠じて帰らん」(先進第十一)。

 

のどかで暖かい春の暮れ、春服が新調されたので、それを着て、成人した者五六人、成人していない童子六七人と共に沂水のほとりに浴し、雨乞い台のある舞雩で舞を舞わせ、詩を詠じながら帰るとしましょうという意味のようだ。

 

この章句は、論語の中でも長いのだが、孔子とその弟子たちの和やかな語らいの様子が描かれていてほほえましい。

 

孔子が4人に尋ねたのは、「世の中に認められたら、何をしたいか」ということだ。

 

会社で社長の面談があって、「君には非常に期待している。ところで君の能力を最大限発揮してほしいのだが、何をしたいか?」と尋ねられたら、あなたは「現在担当している事業をライバルに負けないほど成長させます」、「こんな新しい事業を立ち上げたいと思います」などと意欲満面のことを言うだろう。

 

それは定年間際だろうが、中堅社員の時だろうが、関係ない。社長の前では意欲的なことを言うのが普通だ。

 

そんなときに「のどかな春の季節に歌を歌って暮らします」と答えたら、社長は、「むっ」とした顔で左遷を命ずるだろう。しかし、孔子は、それを最も評価した。なぜなのか?

 

他の3人の弟子は、自分の欲望のまま、自分の意欲のあるところを語ったのだが、一人の弟子は、自分の思うままに幸せなのどかな様子を語った。

 

うがった見方過ぎるが、人々が礼節を重んじ、のどかに暮らすような国になればいいということを思いながらの発言だと、孔子は考えたのかもしれない。

 

あなたもいつか定年を考えるという時に自分の幸せのイメージだけでなく、周囲の人々の幸せなイメージを思い描くようにしたらいいのではないだろうか。そのことを孔子は教えてくれているのではないだろうか。

 

定年後の生き方はいつから考えておくべきかという問いは、冠に「みんなの」と言う言葉をつけたらどうか。

 

あなたの上司が定年を迎えるとき、のどかな春の暮れに歌を歌うほど幸せであればいい。あなたの仲間が定年を迎えるときも同じだ。そんな幸せな会社にしようとあなたは心に誓えばいい。

 

定年は区切りだ。その時、のどかな雰囲気の中で歌を歌えるような会社にしたいと、いつも考えていたらいいのではないか。

働き方という病

働き方という病

江上 剛

徳間書店

大手メガバンクで数々の修羅場をくぐってきた著者が、誰もが仕事上で直面するさまざまな実例を挙げ、東西の古典(論語、孫子、老子、聖書など)から最強の言葉をセレクト。 「あなたにはまだまだ発揮できる力がある!」。逆境…

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