(※写真はイメージです/PIXTA)

親の死後、避けては通れないのが「実家の片づけ」です。大量の遺品、湿気た古家屋、見たこともない家財道具——中には思いがけない“発見”に驚くケースもあります。ときに家計簿や手紙、はたまた封印された通帳など、親の人生の断片がそこに残っているのです。

「家の片づけ、手伝って」兄妹で向かった実家

「父さん、こんなもの隠していたんだな…」

 

そうつぶやいたのは、会社員の田中信也さん(仮名・43歳)。1ヵ月前、74歳で急逝した父の葬儀を終え、妹の美咲さん(仮名・40歳)とともに、両親が長年暮らしていた郊外の平屋を片づけに訪れていました。

 

築52年の木造住宅は、屋根や壁に傷みが目立ち、荷物も山のように残されていました。母は10年前に亡くなっており、父は一人で暮らしていたといいます。

 

「物は多かったけど、父はキレイ好きだったから、ゴミ屋敷ではなかったんです。でも、まさかあんなものが出てくるとは…」

 

その日、美咲さんが押し入れの古い布団をどかしたとき、畳の隙間に小さな金属製の取っ手が埋まっているのを見つけました。

 

「何これ? 床下収納?」

 

畳を慎重に剥がし、木の板を外すと、中から錆びた“金庫”が現れました。小型の手提げ型で、ダイヤル錠がついています。2人は少し戸惑いながらも、「これは開けないと前に進めない」と、鍵を探しました。

 

「工具箱の中に、まさにぴったりの鍵が入っていて。開けてみたら…中には、書類と封筒がいくつか。それと、現金が……10万円ほど入っていたんです」

 

驚いたのは、中にあった一枚の書類。そこには父が所有していた土地の「名義変更を検討すること」「売却時は信也と美咲で半分ずつ」といった内容が書かれていました。いわゆる「遺言書」ではなかったものの、父の署名と日付が入っており、公正証書のコピーも添えられていたのです。

 

「私たちにきちんと伝えず、でも“思い”だけは残してくれていた。父らしいといえば、父らしいですね…」

 

ただし、こうした「自筆証書遺言」や「覚書」には注意が必要です。法律上の要件を満たしていないと、正式な遺言書としての効力が認められないこともあります。

 

2020年7月からは、法務局での「自筆証書遺言の保管制度」もスタートしましたが、それ以前の遺言書は、家庭裁判所で「検認手続き」が必要です。田中さん兄妹は、「念のため」として、司法書士に相談し、遺言の扱いと不動産の登記変更について手続きを進めました。

 

「土地はたいした値段じゃないですが、“兄妹で分けてくれ”という父の意志が見えて、ちゃんと守ってあげようと思えたんです」

 

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