年金月11万円、「私は一人で生きていく」つもりが…
山口澄子さん(仮名・82歳)は50年以上、専業主婦として夫と二人三脚で家庭を守り、娘の美香さんの進学・結婚を見届け、義父の介護も長年一人で担ってきました。そんな澄子さんが夫に先立たれたのは7年前。それ以来、小さな町の団地で一人暮らしを続けています。
頼りは、自分の年金と夫の遺族年金を加えた月11万円の収入と少しの貯蓄だけ。団地の家賃4万円に加え、物価高で生活費はかさみ、血圧の薬代も重くのしかかっていましたが、都内で家庭を持つ美香さんには何も伝えていませんでした。
「年金を使い切ってはダメ、できるだけ貯金しなければ」と、趣味だった手芸サークルや俳句教室もやめ、食事は一日二食の簡素な自炊。外に出ればお金を使うからと、家に閉じこもる生活が続いていました。
栄養の偏りや運動不足が重なり、体力は次第に落ちていきます。そして、光熱費を節約して扇風機でやり過ごしていた暑い夏の日、澄子さんは自宅の廊下で倒れ、脳梗塞を併発して動けなくなったのです。
何度電話しても母が出ないことを不審に思った美香さんが駆けつけ、救急搬送されました。幸い命は取り留めましたが、右半身に軽い麻痺が残った澄子さん。美香さんは会社を休み、入院中はずっとそばについてくれていたといいます。
病室で涙ながらに澄子さんが漏らした言葉は、 「迷惑をかけないつもりで我慢してきたのに、結局こんな形になって。ごめんね……」 という深い後悔でした。
美香さんも「元気だ、大丈夫って言うから、そのまま信じてしまった。もっと早く気づいていれば」と、自分を責めたといいます。
