(※写真はイメージです/PIXTA)

相続資産や持ち家を「老後の安心材料」とする人は少なくありません。都内のマンションや地方の土地、高級車といった「目に見える資産」があれば、たとえ年金だけの生活でも「なんとかなる」と考えがちです。しかし、資産の大きさと“現実の暮らしやすさ”は必ずしも比例しません。相続税、固定資産税、修繕費、資産流動化の難しさ……そうした“見えないコスト”が、老後の家計をじわじわと圧迫することもあるのです。

高齢者の“資産の流動化”が難しい理由

家や土地は現金とは違い、すぐに生活費に変えることはできません。また、高齢になるほど売却や運用に必要な「判断能力」や「決断力」が衰えがちで、現金化するタイミングを逃すケースも多いです。

 

とくに単身の高齢者では、判断や相談相手がいないまま状況が悪化するリスクも。「売れない心理的ブレーキ」が老後の資金難に拍車をかけることがあります。

 

「娘は『売って郊外に引っ越せばいい』って言うんです。でも、私にとっては“ここに住んでいる”ことが最後のプライドで……。本当はスーパーに行くのも坂がしんどいんですよ。でも、見送った夫と過ごした家を離れるのは怖いんです」

 

律子さんはそう話します。都心のマンションは、交通も便利で、医療機関も近く、環境としては申し分ありません。ただ、広すぎる部屋、維持費の高さ、動かせない外車など、“過去の豊かさ”が今は負担になっているのも事実です。

 

老後の生活を支える柱は、年金収入と、資産の計画的な取り崩しです。しかし日本では、「取り崩すこと」自体に抵抗を感じる人も多く、「現金化できない資産」を抱えたまま、生活に困窮する高齢者が増えつつあります。

 

「夫が遺してくれたお金で、何とかなるはずだった。でも、5年経った今、“何とかならないかもしれない”って、やっと思えてきました」

 

律子さんはそうつぶやきました。今後、都内マンションの賃貸化や売却も視野に入れ、信頼できる専門家に相談していく予定だといいます。

 

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