早期退職募集、前年同期比で大幅増
2025年1~8月、上場企業の早期・希望退職の募集人数が1万人を超えたことが、東京商工リサーチの調べで分かった。前年同期の約1.4倍にあたり、2024年の年間募集人数もすでに上回っている。業績が堅調な黒字企業でも、競争力強化や事業再編を目的に人員削減を進めており、製造業を中心に大型募集が相次いでいる。
労働問題に詳しい日本総合研究所客員研究員の山田久氏は、今回の動きを次のように分析する。
「ここ10年ほどでガバナンス改革が進み、アメリカ式の企業統治がプライム市場の大企業に浸透しています。ROEをはじめとする収益性を上げないと株価が下がるため、企業全体では黒字でも非効率な部門は早めに整理するという流れが強まっています」
2025年1月から8月末までに判明した上場企業の早期・希望退職の募集人数は、31社で計1万108人。前年同期の7,284人を大きく上回り、すでに2024年の年間募集人数1万9人を超え、募集規模の大型化が鮮明になっている。
黒字企業は全体の6割を占め、東証プライム上場は24社(77.4%)、直近決算が黒字の企業は19社(61.2%)だった。山田氏は、こうした「黒字企業の希望退職」についても背景を説明する。
「株主からの収益性向上圧力と事業構造変革のスピードが増しており、希望退職による人員整理が進んでいます。効率の悪い部門は整理し、資金と人材を成長分野に振り向ける動きが進むでしょう」(山田氏)
製造業で大型募集相次ぐ
製造業では、日産自動車が7月15日、追浜工場での車両生産を2027年度末までに終了し、日産自動車九州へ統合すると発表。世界規模で2万人の削減を計画しているが、国内人数は未公表。
パナソニックホールディングスも国内外で1万人(国内5,000人)の削減を進め、ジャパンディスプレイは新戦略「BEYOND DISPLAY」の下で茂原工場閉鎖を含む1,500人の削減を実施。9月5日には国内1,483人の応募結果を発表した。
山田氏は、製造業での大規模削減について次のように語る。
「製造業では工場規模が大きく、ホワイトカラーが過剰なケースもあります。現状の経営環境では、過剰人員の整理が加速しています。海外の関税政策など不確実性が高まるなか、減益予想の高まりが人員削減を後押ししています」
黒字企業でも、日清紡ホールディングスは無線・通信事業の構造改革に伴い400人、NIPPON EXPRESSホールディングスは300人を募集。いずれも業績改善や競争力強化を目的としている。
経営環境の変化が退職を後押し
日本経済が踊り場に差し掛かっていることも、希望退職の動きを後押ししている。
山田氏は次のように解説する。
「コロナ後は好調でしたが、米国の関税政策などで先行きは不透明です。海外事業環境の変化も加わり、構造的に事業を見直さざるを得ない状況が出てきています。DXを活用しないと競争に負ける環境であり、事業構造の変革スピードを上げざるを得ません。株主圧力とあいまって、人員整理の流れは続くでしょう」
中小企業への影響と人材流動性
山田氏は、大手から退職した人材が中小企業で活躍する可能性にも触れる。
「大手から退職した人材にはポテンシャルがあり、人材不足の中小企業での活躍が期待されます。しかし、中小企業では職場環境や給与に課題があり、中高年の中途退職者が活躍できる環境整備が求められます。中高年の中途退職者が適切に活用されれば、経済全体にとってプラスになるはずです」
山田氏は希望退職制度自体も社会的に受け入れられてきたことを指摘する。
「20年前は早期募集制度自体の批判もかなりありましたが、現在は経済的・社会的に一定の理解が得られています。大手企業の人材流動性は高まり、中高年層の退職も増えています。AIやDX活用の進展とともに、希望退職は今後も継続する可能性が高いです」(山田氏)
株主圧力やDXの進展、海外事業環境の変化などを背景に、大手企業の希望退職は今後も続く見通しだ。経営効率化だけでなく、退職者の中高年層が中小企業で新たな戦力として活躍する可能性もあり、日本の労働市場全体の変化につながる動きといえそうだ。
THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班
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