「父にそんなお金があったなんて…」
「もう隠しきれないなと思って」
そう打ち明けたのは、年金月6万円で暮らす父(78歳)でした。
50歳の娘・美沙さん(仮名)が帰省したある日、父は突然、長年秘密にしていた“タンス預金”について語り出しました。額はなんと1000万円近く。若い頃から「銀行は信用できない」と現金を自宅で保管し、生活費が足りないときや家の修繕費、冠婚葬祭の出費に充ててきたといいます。
「貯金なんてないと思っていたから、正直驚きました。でもさらに驚いたのは、そのお金がもうほとんど残っていないということでした」と美沙さんは振り返ります。
父は現役時代にこつこつ蓄えた現金を、定年後の20年間に少しずつ取り崩してきました。年金収入だけでは毎月の生活費をまかなえず、赤字分を補填する形で使っていたのです。特に医療費の増加と住宅の修繕費が大きな出費でした。
「病院代や薬代って、こんなにかかるのかと驚きました。修繕も一度に数十万円単位で飛んでいく。気づけばタンスの中はすっからかんに近い状態で…」と父は語ります。
娘の美沙さんにとって、帰省のたびに元気そうに見えていた父の生活は「ぎりぎりの綱渡り」だったと初めて知ることになりました。
金融広報中央委員会の調査によれば、日本の家計における現金・預金比率は依然として高く、とりわけ高齢者世帯では「タンス預金」を保有している人が少なくありません。理由としては「銀行が信用できない」「万一に備えてすぐ使えるように」という心理が挙げられます。
しかし、タンス預金にはいくつかのリスクがあります。第一に、インフレに弱く、現金の実質的な価値が目減りしてしまうこと。第二に、介護が必要になった際の費用計画に反映されず、家族が資金状況を正確に把握できないことです。また、相続時に申告が漏れると「申告漏れ」とみなされ、追徴課税の対象となる可能性もあります。
国税庁の統計によれば、近年の相続税調査で申告漏れが多いのは現金・預貯金。タンス預金はその典型例といえるでしょう。
