父からの“面会拒否”と鍵の交換
「もう来なくていい。鍵も替えたから」
その日、真理子さん(仮名・53歳)は、実家の門前で呆然と立ち尽くしました。実家には83歳の父・幸一さん(仮名)が一人で住んでおり、最近は通院の付き添いや買い物の手伝いのため、毎週末に顔を出していたといいます。
「まさか、父からそんな言葉を言われるなんて思ってもみませんでした」
確かに、ここ数ヵ月の父は、どこかよそよそしく、突然怒り出すことも増えていたそうです。ある日を境に、LINEの既読もつかなくなり、電話にも出ない。そう思って直接訪ねた日の“宣告”でした。
それから1週間後、真理子さんは市役所の高齢福祉課に相談し、「安否確認」の要請を出しました。幸い、職員とともに訪れた際には父は在宅しており、健康状態にも大きな問題はなかったそうです。
しかし、そのとき真理子さんの目に留まったのは、室内にいた“見知らぬ若い男性”の姿でした。
「“父の知人の紹介で一時的に同居している”と説明されましたが、私はその方のことを何も知らず、少し驚きました。父も多くを語りたがらず、不安が残りました」
父は以前から「近所の人とはほとんど関わらない」性格でした。その父が、どうやってそんな人とつながったのか、真理子さんには見当がつきませんでした。
近年、高齢者が認知機能の低下によって判断能力を失った状態で、周囲から不利益な契約や贈与をさせられる事例が増えています。
とくに「見守る家族が遠方にいる」場合や「同居していない」場合、第三者が高齢者に接近し、財産管理や居住の主導権を握るリスクが高まります。
高齢社会白書(令和6年版)によると、認知症の高齢者数は443.2万人、MCI(軽度認知障害)の高齢者数は558.5万人と推計されています。介護施設ではなく自宅で生活する人も多く、成年後見制度や地域包括支援センターによる支援の重要性が増しています。
