「契約を取ってこその営業マン」…確かに間違ってはいないかもしれません。しかし、数字至上主義のままでは、思わぬ最後が待っているかもしれません。見ていきましょう。

65歳まで働けるはずが「家をうろうろ」の現実

59歳のとき、Aさんは当然のように「継続雇用になっても65歳までバリバリ働く」と考えていました。ところが60歳を目前に、まさかの通達を受けます。それは営業とは無縁の「閑職」への異動。誰が見ても社内左遷とわかるポジションでした。

 

若手や女性社員からの評判は極めて悪く、「下から見れば絶対に残したくない上司」とまで言われていました。時代錯誤ともいえる態度は、組織の中で完全に浮いており、継続雇用への切り替えというタイミングで、その悪評が現実となって返ってきたのです。

 

Aさんが密かに下に見ていた同期は、これまでと同じ営業のポジションに残ると言います。

 

「あいつが残って俺が異動? ふざけるな!」

 

しかし、Aさんに異動の拒否権はありません。結局「あんな部門に行くくらいなら」と継続雇用を断り、会社を去る決断をしたAさん。勤続37年、まばらな拍手と共に見送られました。

 

しかし、今さら転職活動をする気力も湧きません。昼間は自宅でテレビをつけっぱなしにし、意味もなく冷蔵庫を開けてうろうろするだけ。妻はそんなAさんを避けるように習い事を増やし、外出時間を長くするようになりました。

 

退職金は3,000万円、貯金も1,000万円以上あり、当面の金銭的な不安はありません。それでも外に出て、同年代の人が通勤に急ぐ姿を目にすると、「行く場所がないことがこんなにむなしいなんて」と胸が締めつけられ、ますます家にこもりがちになります。

 

「全部俺が悪いのか? こんなの、あんまりじゃないか……」

「実力主義」の勘違いが招く哀しい末路

Aさんのケースは、決して珍しくありません。今の組織では、単に結果を出すだけでなく、「人と協働できるか」「若手を育てられるか」が同じくらい重視されます。むしろ、威圧的で空気を乱す存在は“マイナスの実力”と見なされてしまうのです。

 

「数字を取れる人間がえらい」という考えが最後まで抜けきらなかったAさん。しかし、その実力主義の勘違いが彼を孤立させ、60歳での“静かな退場”につながりました。

 

時代が変われば、求められるリーダー像も変わります。50代・60代にとって最大の実力とは人を活かし、柔軟に関係を築ける力。それを持たない人は、たとえ実績豊富でも、気づけば「家をさまようだけの人」になってしまうのです。

 

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