「同居すれば、少しは楽になると思っていた」
「母の年金で生活が少し楽になるかと思ったんです。正直、甘かったですね」
そう語るのは、都内在住のシングルマザー・田村明美さん(仮名・44歳)。10歳の娘と2人暮らしだった彼女は、2年前に当時75歳だった母・幸子さん(仮名)を自宅に呼び寄せ、「三世代同居」を始めました。
きっかけは、母が一人暮らししていた地方の賃貸アパートで転倒し、骨折したこと。もともと「何かあったらすぐに駆けつけられない」と心配していた明美さんは、「同居が一番」と決断しました。
「母は厚生年金を月18万円ほどもらっていて、“年金生活者の中では恵まれている方”だと思っていたんです。でも、現実はまったく違いました」
当初、母の年金は「家賃代わり」として生活費に回す予定でした。ところが、母が都内の病院で継続的に通院治療を受けるようになり、毎月の医療費・薬代が1万円以上に。介護認定はまだ受けていませんが、通院の付き添いや買い物も明美さんが担う必要があり、仕事を早退する日も増えました。
「一番痛かったのは、食費と光熱費です。大人が一人増えるだけで、思っていた以上に家計が苦しくなりました。夏場はクーラーを母の部屋につけっぱなしにしていたし、以前より光熱費が月5,000〜8,000円は上がっています」
さらに、娘の中学進学を控え、学習塾や教材費などの教育費もかさんできたタイミング。「子育てと介護のダブルケア」に近い状況に追い込まれ、明美さんのストレスは限界に達していました。
年金が18万円あれば安泰、と思うかもしれません。しかし、実際には高齢者の医療費、生活費、さらには将来的な介護費用までを賄うには十分とは言えないケースも多いのが現実です。
例えば、介護保険制度においては、65歳以上の人は「第1号被保険者」として、要介護認定を受けた場合にサービスが提供されますが、要介護1〜2程度の軽度者は、訪問介護などに利用制限がかかる自治体もあります。また、介護サービスを使っても、1割〜3割の自己負担が生じます。
家族による同居・介護を前提とした制度設計になっている側面があり、田村さんのように“支える側”が経済的・精神的に疲弊することも珍しくありません。
