目からウロコの家計診断
手はじめに、図書館でマネープランの本をてきとうに数冊読んだ。家計のやりくりや節約の話がたくさん書かれていた。本を書いているのはファイナンシャル・プランナーや経済評論家などさまざまな人たちだったが、どの本もだいたい同じような内容や構成になっていた。家計の見直し → 無駄の削減 → 貯蓄・投資 → ライフイベントへの備えといった流れだ。
まず家計の見直しのため、20代の標準的な住居費、水道光熱費、食費、服飾費、保険料、交通・通信費、娯楽費などの数字を見て、わが身をふり返る。
私は転勤族で全国を転々とさせられていたので、幸か不幸か、住居は社宅扱いの借上げマンションに格安で住むことができた。ただし、物件は会社が指定するため、自分で選ぶことはできなかった。水道光熱費、服飾費、交通・通信費は標準的である一方、娯楽費が大きすぎることがわかった。趣味のスノーボードやバス・フィッシングには道具だけでなく、車移動にかかる高速代やガソリン代、リフト代それなりにお金がかかるが、「お金が足りなくならなければいいや」とまったく気にせず毎週のように行っていた。また、週3回くらいのペースで公私にわたり飲み会に参加しており、これも湯水のようにお金を使っていた。そしてなにより、中古車2台分のカーローンが家計を圧迫していた。
そのとき、多くのマネープラン本に共通して書かれていた家計見直しの代表例が、生命保険や傷害保険の見直しと、携帯電話の料金プランの見直しだった。保険には自動車保険以外ほとんど加入していなかったが、給与明細を見ると、よくわからない項目でお金が引き落とされていた。「相互扶助費」という名前だったが、内容はよくわからなかった。それでも毎月、天引きされていた。会社の総務部に聞くと、「みんなでお金を出し合い万一に備える助け合いのシステムだ」という。どんなことを助けてくれるのか調べてみると、結婚時や出産時、けがや入院した時などに申請すると、しょっぱい金額が支払われるというものだった。まあ、保障内容の悪い保険のようなものだったのだ。
これを解約しようと総務部に話すと、「これは助け合いだから解約するとかそういうものじゃない」と突っぱねられる。多少、マネープラン本で知識を身につけていた私は、「相互扶助なら必要な人が自分で保険に入ればいい。社員に希望も確認せずに強制的に加入させるこの制度はおかしい。解約する!」「いままでこれを解約した人なんて聞いたことがない。助け合いの心がないのか。あきらめろ」と、総務の担当者と大げんかになった。
結果、ねちねち言われながらも、解約することはできた。しかし、解約返戻金として戻ってきたのは、これまで支払ってきた金額の半分程度だった。10数万円を失い、お金がなかった当時の私は「社員相手に、なんてひどい商売なんだ!」と憤っていた。冷静に考えると、どの保険にも加入年数によって解約返戻金が変わるという注意書きがあるものだ。「よくわからない保険を、よくわからないまま契約してはいけない」という鉄則が10数万円の勉強代で私の頭に強烈に刻み込まれた。これは失敗であったが、その後の人生で大いに役立つ体験となった。
水瀬 ケンイチ
個人投資家
