(※写真はイメージです/PIXTA)

相続は「亡くなった後の問題」と思われがちですが、実際には「生きているうちの決断」によって家族関係が大きく揺らぐことがあります。遺言書によって誰に何を遺すか――その意思表示は強い法的効力を持ちますが、感情面ではしばしば見えない火種を生みます。特に、親が生前に兄弟のどちらかに資産を集中させる判断をしたとき、遺された家族の間で何が起きるのでしょうか。

「兄より弟」だった父の“価値観”

なぜ信一さんは、長男ではなく次男に全財産を相続させようとしたのでしょうか。

 

「兄貴は公務員で堅実だけど、親父の仕事は手伝わなかった。弟のほうが俺の役に立ってくれた、っていつも言っていましたね」と、親族のひとりは振り返ります。

 

昭一さんは家庭を持ち、遠方に住んでいたこともあり、父と関わる時間は限られていたそうです。対して洋介さんは、ビジネス感覚や現場対応の柔軟さから、信一さんの“右腕”的存在として重宝されていたと言います。

 

今回のように、被相続人が特定の相続人に財産を集中させるケースは珍しくはありません。特に、不動産や事業資産を持つ家庭では「継がせる者に集中して相続させたい」という意図が働くことがあります。

 

しかし、それが“生前の話し合い”や“家族の理解”を経ずに進められた場合、残された家族の間に深い亀裂が生じることは避けられません。

 

「相続で家族が壊れるなんて思いもしませんでした。遺産なんていらないから、せめてちゃんと話をしてほしかった」

 

昭一さんは、そう吐き捨てるように言いました。

 

今回のケースのように、公正証書遺言があれば、被相続人の意思を明確に伝えることはできます。しかし、その一方で、受け取る側の心情や兄弟間の信頼関係には配慮が必要です。

 

遺言を作成する際には、相続人間の“感情の落とし所”を見つける工夫も重要です。生前に話し合いを持ち、なぜこの配分にしたのかを伝えておくことで、後々のトラブルを防ぐことにつながります。

 

遺産は、金額の大小にかかわらず、人間関係の“最終確認”を突きつける場面にもなります。

 

誰に託すのか。その理由を、誰とどう共有するのか――。相続とは、財産の分配以上に、「家族という関係」をどう締めくくるかが問われる局面なのかもしれません。

 

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