制度開始5年で10万件突破
法務省によると、2020年7月にスタートした自筆証書遺言書保管制度の保管申請件数は、2025年6月末時点で10万137件、実際の保管件数は9万9,910件に達した。従来は自宅保管が中心だった自筆証書遺言が、安全性と信頼性を確保する方向へシフトしていることを示している。
相続問題に詳しい山村暢彦弁護士は「自筆証書遺言は、公正証書遺言と比べて紛失や隠匿、改ざん・偽造といったリスクが指摘されてきました。その点、法務局での保管制度が普及することで、こうしたトラブルを未然に防げるようになったのは大きな意義があります」と話す。
さらに山村弁護士は「作成件数の面では、公正証書遺言が依然として年間10万件超と主流ですが、自筆証書遺言保管制度が5年で10万件に達したことは、公正証書遺言件数の約5分の1に相当します。制度が国民のニーズに合致し、着実に定着してきたことを示しています」と評価する。
相続実務での活用も進展
相続発生後の利用実績も着実に積み上がっている。遺言内容を証明する「遺言書情報証明書」の交付請求は8,507件、遺言書の有無を確認する「遺言書保管事実証明書」の交付請求は1万1,531件にのぼっている。
山村弁護士は「証明書交付件数が年々増加しているのは、制度が実際の相続手続きで確実に活用されていることを示しています。これにより、遺言の有無や内容を迅速に確認でき、相続の円滑化や遺言者の意思尊重につながるとともに、紛争予防の観点からも大きな効果があります」と指摘する。
高齢者・富裕層に広がるニーズ
自宅で保管される遺言書は、紛失・改ざん・発見されないリスクを常に抱えてきた。巨額の資産や事業を承継する家庭ほど、そのリスクは「争族」へ直結する。法務局に遺言書を預けることで、相続人による確認や証明が制度化され、不毛な紛争を未然に防ぐ効果が期待される。
ただし、山村弁護士は「形式的なリスクは防げても、内容が不十分であれば相続問題が解決しきれない場合もあります。そのため、今後は自筆証書遺言保管制度とあわせて、公正証書遺言の作成を促すような周知や制度改正も課題です」と強調する。
利用時の注意点
制度を利用する際の実務的な注意点について、山村弁護士は「なるべくシンプルにまとめることが大切」と助言する。
「『子どもに全財産を相続させる』『金融資産を2人の子どもに半分ずつ分ける』といった記載なら、誤りも少なく安心です。しかし、不動産売却の条件付き指定や複雑な分割方法などを自筆証書遺言で書くと不備が生じやすく、遺言がうまく機能しないリスクがあります。その場合は公正証書遺言の利用が望ましいでしょう」
普及に向けた課題
制度の認知度は依然として十分とはいえず、利用者層も都市部や資産家に偏る傾向がある。相続税対策や事業承継を視野に入れる層にとっては有力な選択肢である一方、遺言作成自体に踏み切らない高齢者も少なくない。
山村弁護士は「遺言がないために相続が滞り、土地や建物が放置されて空き家問題につながった事例もあります。より多くの方に制度を知っていただき、利用が一層広がっていくことが望まれます」と呼びかける。
制度開始から5年で保管申請件数10万件を突破したことは、日本の遺言実務における大きな潮流を示すことを意味する。高齢者や資産家にとって、自筆証書遺言書保管制度は「相続トラブル回避の切り札」として、今後ますます重要性を増していくことになりそうだ。
THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班
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