築40年の木造アパートを売却したら、突然「税務署」から“お尋ね”が届いたワケ【税理士が解説】
自然災害による賃貸人の責任
自然災害時における賃貸人の責任について、裁判所はどのように判断しているのでしょうか。特に判断がわかれやすい「土地工作物責任」に関する裁判例をみてみましょう。
超大型台風によって破損したガラスが隣の車を損傷させたケース(東京地裁平成25年5月24日判決)
台風によって建物のガラスが破損して落ち、隣地に駐車していた車両を損傷させた事案で、建物の所有者が損害賠償責任を負うかどうかが争われました。この台風は日本気象協会によると「超大型」とされる台風でした。
そこで所有者は「想定を超える規模の台風であり、不可抗力であった」と主張。しかし裁判所は、「日本では台風は大型を含めしばしば発生しており、過去の気象データからみて、同程度の規模の台風が襲来することは想定外、もしくは不可抗力とはいえない」と判断。結論として、建物のガラスが通常備えるべき安全性を確保していなかったとして「保存の瑕疵」を認定し、所有者の不可抗力の主張を退け、損害賠償責任を認めました。
この裁判例が示すように、単に「自然災害だから」という理由だけで責任を免れることは困難です。その地域で過去に発生した台風の規模などを考慮し、それに耐えうるだけのメンテナンスがなされていたか、という点が厳しく問われます。堅実なアパート経営を行ううえでは、このような司法的判断の傾向を理解しておくことが極めて重要です。
訴訟リスクを回避する事前準備と緊急対応
高額な損害賠償や訴訟といった事態に発展することを避けるためには、平時からの備えがなによりも重要です。下記のような観点から、対策を怠らないようにしてください。
日常的なメンテナンスと定期的な大規模修繕の実施
最も重要なのは、建物の維持管理です。屋根や外壁にひび割れや劣化がないか、定期的な点検を行いましょう。特に、築古物件に投資される場合は、購入前に修繕履歴を確認し、購入後速やかに必要な修繕計画を立てることが肝要です。防水工事や外壁塗装などを計画的に実施し、建物の安全性を常に高いレベルで維持することが、最大の訴訟リスク対策となります。
適切な損害保険への加入
火災保険に、風災・水災などをカバーする特約を付帯させることは必須です。万が一の被災時の修繕費用をカバーできるだけでなく、被害者への賠償責任をカバーする「施設賠償責任保険」なども検討すべきでしょう。特に人にけがをさせてしまった場合には、高額な賠償になることがありますから、最適な保険に加入しておくほうが安心です。
入居者との良好な関係構築と緊急時の連絡体制の整備
平時から入居者とのコミュニケーションを密にし、信頼関係を築いておくことも重要です。また、台風の接近が予測される際には、事前に注意喚起を行いましょう(ベランダの物を片付けてもらう等)。さらに、被災した場合の連絡先や対応フローを明確にしておくことで、混乱を防ぎ、迅速な対応を可能にします。
堅実なアパート経営は、積極的な投資判断だけでなく、こうした地道なリスク管理によって支えられています。法的な責任範囲を正しく理解し、備えを万全にすることで、大切な資産と入居者の安全を守り、長期にわたる安定した経営を実現してください。
溝口 矢
法律事務所Z アソシエイト・東京オフィス
弁護士

