(※写真はイメージです/PIXTA)

かつての投機対象だった暗号資産だが、ここにきて「資産」としての存在感を高めつつある。2026年度税制改正で分離課税が導入されると、これまで高税率を理由に距離を置いてきた富裕層や法人投資家の資金流入が加速する可能性がある。※本連載は、THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班が担当する。

暗号資産市場、2020年以降再び拡大傾向に

2017年の急騰・急落を経て一時的に停滞していた暗号資産市場は、2020年以降再び拡大傾向にある。

 

背景には以下の要因があると考えられる。

 

●主要銘柄の取引量増加

●決済手段としての普及

●機関投資家の本格参入

 

米国では2021年にビットコイン先物ETFが承認され、市場における制度的な位置づけが明確化された。日本でも金融庁が金融商品取引法の枠組みで暗号資産を整理し、取引所には登録制を導入。「暗号資産交換業者」は金融庁の監督下に置かれ、一定の健全性が担保されている。

国内富裕層の参入を抑制してきた「最大55%」の総合課税

現行制度では暗号資産の利益は総合課税の対象で、給与所得や事業所得と合算して計算される。そのため、高所得者では税率が最大55%に達する場合もあり、株式や投資信託(所得税・住民税合わせ約20%)と比べて重い税負担となっている。

 

この重税感が参入障壁となり、業界団体や投資家の間では「分離課税」を求める声が強まっている。

 

主要国との比較は以下の通りである。

 

米国:保有期間に応じてキャピタルゲイン課税。長期保有(1年以上)で税率が軽減される。

ドイツ:個人投資家の場合、1年以上保有すれば売却益が非課税となるケースがある。

スイス:所得税の対象ではなく資産税扱いとなる場合があり、長期投資に有利な環境。

 

この比較からも、日本の総合課税(最大55%)は相対的に高税率であり、国内富裕層の参入を抑制してきた要因の1つと考えられる。

2026年度税制改正での「分離課税」の可能性

金融庁は2026年度の税制改正要望に、暗号資産課税制度の見直しを盛り込む方針を示している。仮に分離課税が導入されれば、投資家の税負担は軽減され、暗号資産を長期運用資産として組み込む動きが進む可能性がある。

 

特に富裕層にとっては、これまで高税率を理由に避けてきた暗号資産が株式に近い扱いを受けることで、分散投資の選択肢に加わることも考えられる。国内上位1%の投資余力を持つ層がポートフォリオの一部を暗号資産に配分すれば、国内市場に数千億円規模の資金流入が生じる可能性もある。

 

法人投資家も、既存ポートフォリオに暗号資産を加えることで分散投資効果を享受でき、長期保有前提の運用戦略を描きやすくなるだろう。

投機から「オルタナティブ投資」へ

暗号資産の位置づけは変化している。かつては投機対象として注目されたが、今では投資ポートフォリオを補完する「オルタナティブ投資」としての役割が意識されつつある。

 

金融庁の統計によれば、国内の暗号資産交換業者の利用者は年々増加し、2023年度には500万人規模に達した。若年層に加え、資産分散を重視する中高年層や法人投資家にも利用が広がっている。さらに2023年6月には改正資金決済法が施行され、円建てステーブルコインの発行も解禁され、暗号資産は決済・送金インフラとしての利用も進みつつある。

 

ただし、依然として以下のリスクは残る。

 

●価格変動の激しさ

●取引所のハッキングによる資産流出

●各国規制の不透明さ

 

税制や制度が改善されても、投資ポートフォリオへの組み込みは慎重に判断する必要がある。

2026年度税制改正は「資金流入の号砲」となるか

もし2026年度税制改正大綱に分離課税の導入が盛り込まれれば、単なる税負担軽減にとどまらず、市場や制度に広範な影響を与える可能性がある。

 

国内取引所の活性化:流入資金の増加で取引量拡大や新規サービスの開発が進む可能性。

決済・送金用途の普及:円建てステーブルコインの発行解禁で、暗号資産の利用範囲が広がる可能性。

投資商品開発の加速:暗号資産ETFや信託型商品など、富裕層向けの運用商品が増える可能性。

 

これらにより、単なる税制改正以上に、暗号資産市場全体の成熟と安定性向上が期待される。ただし、暗号資産を運用に組み込む際は、リスク分散や既存金融資産との相関、税制改正後のメリット・デメリットを冷静に検討することが重要である。

 

2026年度税制改正によって市場に影響を与えれば、富裕層にとって新たな投資戦略を描く契機となるかもしれない。

 

 

THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班

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