消費税不正還付が過去10年で最多、典型的な手口は…
国税庁によれば、仕入税額控除や輸出免税制度を悪用した不正還付事案の摘発が顕著で、件数は過去10年で最多となった。
典型的な手口としては、高級腕時計の輸出を装うために安価な時計を用意し、偽造した高額の領収書や輸出書類で還付を受けようとするケースが確認されている。
脱税手口複雑化で内偵班の「自己開発」激減、税務署の通報頼みに
元国税査察官で、特別調査班(特調班)の指揮経験を持つ税理士・上田二郎氏は、今回の状況について次のように語る。
「私が在籍していた2006年当時、内偵班の矜持は“自己開発”――独自に脱税者を見つけ出すことでした。税務署からの通報は『涙の連絡せん※』と呼ばれ、評価は自己開発の1割程度にすぎませんでした。しかし脱税手口が複雑化するにつれ自己開発は激減し、その頃から消費税事案が増えましたが、ほとんどは税務署の通報に基づくものでした」
※「涙の連絡せん」の「せん」は「重要資料せん」「査察連絡せん」の“せん”。役所や軍・警察・企業で使われる 「便箋(びんせん)」や「通せん」などに由来する。
上田氏によると、消費税は申告制であり、帳簿を調べれば比較的容易に不正を見抜けるため、税務署主導の調査で対応できることが多い。そのため「無申告や帳簿外取引といった悪質事案に切り込むのがマルサの役割」という従来の認識が薄れつつあるという。
「コロナ禍を経て成果を強調し、“マルサ復活”を印象づけたい意図も感じられますが、自己開発が十分でない現状も浮き彫りです」(上田氏)
「自ら脱税者を見つけ出す」のが内偵班の矜持だったが…
さらに上田氏は、デジタル化や国際取引の広がりによって事案の複雑性が増している点を指摘する。
「外部からの通報を待つだけでは、マルサの存在意義が問われます。街に出て自ら脱税者を見つけ出す――それこそが内偵班の矜持だったはずです」
税理士の視点からも、マルサでなければ解明できない悪質な脱税は依然として多く潜んでいると強調する。
「暗号資産や海外資産を絡めたスキームなど、脱税の発見はますます難しくなっています。消費税不正還付は国家に対する詐欺的行為であり、厳格に取り締まるべきですが、税務署通報に依存するだけでなく、“自己開発”の力を取り戻し、マルサには底力を発揮してほしいですね」
成果と課題が同時に露呈
令和6年度の査察は、消費税不正還付を中心に、無申告・国際事案・社会的影響の大きい案件まで幅広く摘発し、告発率65%、有罪率100%を達成した。華々しい成果の裏で、自己開発力の低下という課題も同時に明らかになったといえそうだ。
THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班
