【9月の為替動向予測】人民元、貿易戦争で弱含み・EUR、成長回復なら強含む・米国利下げ実施すれば円安大幅修正も…高まる地政学リスク、分散投資が重要に

【9月の為替動向予測】人民元、貿易戦争で弱含み・EUR、成長回復なら強含む・米国利下げ実施すれば円安大幅修正も…高まる地政学リスク、分散投資が重要に
(※写真はイメージです/PIXTA)

世界各国が振り回されている米国・トランプ政権の貿易政策。トランプ大統領は多くの国に8月より新たな関税を課すと警告したことで、グローバルな貿易緊張が高まりました。各国が打ち出す政治経済政策と、それらが他国へ及ぼす影響を推察し、9月の為替動向を探ります。

米国は堅調、中国は厳しく、欧州は不確実性残る、日本は円安のまま

8月、世界の政治経済では主に米国のトランプ政権の貿易政策が大きな話題となりました。トランプ大統領は多くの国に対して8月から新たな関税を課すと警告していたため、これがグローバルな貿易緊張を高めました。例えば、米国はEUや中国、カナダなどに対して高い関税を適用し、その結果、世界的なサプライチェーンが乱れ、市場のボラティリティが高まりました。これらの関税は米国内のインフレを押し上げる要因となり、消費者物価に1.8%程度の上昇圧力を与えると見られています。

 

米国経済自体は堅調で、2025年のGDP成長率は上方修正されましたが、雇用データは弱く、7月の非農業部門雇用者数は予想を下回りました(5月、6月分も大幅に下方修正)。これにより、連邦準備制度理事会(FRB)は9月に利下げを検討するのではないかとの思惑が広がり、市場は年内2-3回の利下げを織り込み始めています。

 

一方、中国経済は厳しい状況です。8月の工場生産と小売販売が予想以上に減速し、2025年のGDP成長率は前年の5.0%から4.6%へと低下する見込みです。米中貿易摩擦の再燃が主因で、輸出が打撃を受けています。これにより、中国人民元(CNH)は米ドルに対して弱含みの展開となりました(4月の関税措置発表時には7.4を超える人民元安となった)。足元では関税交渉が継続中で、一部課税が猶予されていることから、7.15~7.20のレンジ相場に収まっています。

 

欧州では、EUが米国との貿易協定を結び、EUは全ての米国製工業製品に対する関税を撤廃し、米国は自動車を含めEU製品に対する関税の上限を15%とすることで合意しましたが、不確実性は残っています。ユーロ圏のGDP成長率は0.9%と緩やかでECBの金融緩和は継続中です。

 

日本では、第2四半期のGDPが0.5%成長し、円は米ドルに対して147円前後で推移しました。日銀の政策は据え置きで、円安傾向に変化はありません。

 

為替相場への影響には注意が必要ですが、その中でも米ドルは底堅く推移しています。EUR/USDは1.16前後、GBP/USDは1.30台を維持しましたが、関税の影響でリスクオフのムードが広がり、円やスイスフランといった安全通貨が買われる展開には引き続き注意が必要です。特に8月初旬、7月の米国雇用統計データの悪化で、USD/JPYは一時146円台まで下落しました。全体として、為替相場のボラティリティは高止まりしており、トレーダーはFRBの利下げ期待と貿易政策の行方を注視しています。

9月以降も貿易戦争が鍵…注目通貨は「米ドル」と「日本円」

9月以降も貿易戦争が鍵となりそうです。トランプ政権の関税政策は世界のGDPを0.5%程度押し下げる可能性があり、IMFの予測では来年の世界GDP成長率は3%程度にとどまる見通しです。米国では、FRBの利下げがドル安を招く一方、強い経済基盤が下支えとなるでしょう。EUR/USDは1.15を下回るリスクがありますが、EUの成長回復が進めば持ち直し、ECBの利下げも打ち止めとなり相対的にEURが強含む可能性があります。

 

注目通貨として米ドルと日本円を取り上げます。日本円については、円安傾向が続いても為替市場介入の可能性は低いと見られます。その代わりに、先日のスコット・ベッセント米財務長官の発言のように、日銀が利上げに踏み切ることで円安を抑制できるかが注目されています。ベッセント長官は8月14日、日銀の慎重なアプローチを批判し、利上げを促すコメントを出し、これを受けて円は一時的に強含みました。日銀の政策金利は現在0.5%で、7月の会合でも利上げが議論されました。エコノミストの多くは年内、特に10月頃に25bp以上の引き上げを予想しています。これが実現すればUSD/JPYは145~150円のレンジで安定する可能性が高く、円安抑制に寄与するでしょう。

 

一方、FRBの9月利下げについては市場の期待が高まっています。ジェローム・パウエル議長は8月22日、利下げの条件が整いつつあると示唆し、市場では9月16-17日の会合で利下げが実施されるとの見方が91.5%以上を占めています。ただし、雇用やインフレのデータ次第で慎重に進める見通しです。仮に利下げが実行され、その後の発言がハト派色を帯びれば、米ドルは弱含み、ドル円は145円を割り込んで円安の大幅修正が進む可能性もあります。

 

また、リサ・クックFRB理事の解任騒動も今後の金利動向に影響を与える可能性があります。トランプ大統領は8月26日、クック理事を住宅ローン詐欺疑惑で解任しようとしましたが、理事はワシントンの連邦裁判所に提訴しており、FRBの独立性が脅かされています。これが長期化すればFRBの政策決定に政治的圧力が加わり、金利予測が困難になるリスクがありますが、現時点では利下げ路線に大きな変更はないと見ています。

 

中国人民元は経済刺激策次第で安定する可能性があるものの、貿易戦争の長期化で弱含む展開が続くでしょう。

 

全体として、地政学リスクが高まる中では分散投資が重要です。引き続き最新ニュースをチェックしながら、慎重な運用が求められます。

 

 

藤田 行生
SBI FXトレード株式会社
代表取締役社長

 

※ 本連載に記載された情報に関しては万全を期していますが、内容を保証するものではありません。また、本連載の内容は筆者の個人的な見解を示したものであり、筆者が所属する機関、組織、グループ等の意見を反映したものではありません。本連載の情報を利用した結果による損害、損失についても、筆者ならびに本連載制作関係者は一切の責任を負いません。投資の判断はご自身の責任でお願いいたします。

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