(※写真はイメージです/PIXTA)

銀行とM&A仲介会社が協業してM&A案件を提案してくる場合、その案件がどのような経緯で自社に持ち込まれたのか、その背景を理解することが重要です。また、M&Aのプロセスにおいては、相手方の情報が少しずつ開示されるケースも少なくありません。本稿では、川原大典氏の著書『銀行の提案を鵜呑みにしない 事業承継の疑問』(幻冬舎メディアコンサルティング)より、M&A案件に潜む「隠れたリスク」について詳しく解説します。

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PMIを成功に導く「情報開示」の重要性

インフォメーションパッケージを確認したところ、2つの問題点が見つかりました。

 

1つ目は、未払い残業代があると思われること。未払い残業代の問題は、M&A実行後に重大なリスクをもたらす可能性があります。最も懸念されるのは、従業員が労働基準監督署へ通報するケースです。そうなれば、監督署による調査、過去の未払い賃金と遅延損害金の支払い義務が発生し、経済的負担だけでなく、企業イメージの低下を招きます。さらに、人材採用への悪影響も避けられません。M&A後、一体となって事業を推進すべき従業員と経営陣の間に不信感が存在する状態となり、組織統合の障壁になります。

 

2つ目の問題は、事業用の土地が市街化調整区域にあることでした。市街化調整区域なので、原則として、将来の建物建て替えができません。売却も困難になることが想定され、ほぼ無価値と評価せざるを得ません。

 

この問題を考慮すると、売り手企業の価値はせいぜい1億円程度でした。売り手企業の希望取引額は4億円でしたので、大きな差があります。1億円に取引価額が下がったとしても、この会社を買収するとさまざまな問題を抱えることになります。同じ1億円を人材採用や設備投資に使って、自社の事業拡大を図ったほうが良いと判断できる案件です。

 

M&Aプロセスのなかで最も重要なのは、M&A終了後のPMI(Post Merger Integration:買収後の統合プロセス)です。M&Aの満足度調査では、基本合意締結前にPMIを検討した企業の満足度が高いことが報告されています(2023年版「中小企業白書」第2-2-44図)。

 

出所:『銀行の提案を鵜呑みにしない 事業承継の疑問』(幻冬舎メディアコンサルティング)より引用
【図表】PMIの検討開示時期別に見たM&Aの満足度 出所:『銀行の提案を鵜呑みにしない 事業承継の疑問』(幻冬舎メディアコンサルティング)より引用

 

基本合意まで進むと、売り手企業の期待も膨らみます。売り手企業に関する調査は、PMIを意識して、基本合意前に可能な限り行わなくてはなりません。買収監査前ではありますが、少なくともインフォメーションパッケージ程度の情報は必要で、必要だと思う情報は追加で開示依頼し、気になることは質問することが大切です。

 

銀行とM&A仲介会社は、情報を小出しにしてくる場合があります。たとえメインバンクが相手であっても、必要な情報は遠慮せずに依頼する必要があります。

 

 

川原 大典
みどり財産コンサルタンツ
代表取締役社長

 

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※本連載は、川原大典氏の著書『銀行の提案を鵜呑みにしない 事業承継の疑問』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・編集したものです。

銀行の提案を鵜呑みにしない 事業承継の疑問

銀行の提案を鵜呑みにしない 事業承継の疑問

川原 大典

幻冬舎メディアコンサルティング

長年にわたって情熱を注ぎこみ、経営してきた会社を次の世代にいかにして承継するか――。事業承継は企業経営者にとって避けては通れない大きなテーマの一つです。事業承継を進めるにあたっては、会計・税務・法務といった多分…

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