(※写真はイメージです/PIXTA)

銀行が提案する持株会社スキームは、新設法人が借入を行うため、一見すると本業法人への影響は少ないように思えます。しかし、その借入の返済原資は、本業法人が生み出す税引後の利益から支払われる配当金です。本稿では、川原大典氏の著書『銀行の提案を鵜呑みにしない 事業承継の疑問』(幻冬舎メディアコンサルティング)より、持株会社スキームにおける長期的な影響について詳しく解説します。

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異常に大きくなる本業法人の資金負担

持株会社スキームを選択した場合の資金負担は、表面上よりはるかに大きなものになります。

 

先ほどの法人税法上の時価30億円の会社の例で考えてみると、銀行が提案する持株会社スキームでは、以下のように取引が行われます。

 

<持株会社のスキーム例>

1.後継者が株主となり、新設法人(持株会社となる法人)を設立(ほとんどの場合、少額の資本金で設立)

2.新設法人(持株会社)は、銀行から借入で資金調達。調達額は、自社株式の取引に必要な30億円

3.新設法人は、社長に30億円を支払い、本業法人の自社株式を取得

4.新設法人は、一定期間経過後に、本業法人から配当を受け取る。新設法人が受け取る配当は、法人税の課税対象外

5.新設法人は、この受取配当を原資として銀行に返済

 

出所:『銀行の提案を鵜呑みにしない 事業承継の疑問』(幻冬舎メディアコンサルティング)より引用
【図表】銀行の提案する持株会社スキームの流れ 出所:『銀行の提案を鵜呑みにしない 事業承継の疑問』(幻冬舎メディアコンサルティング)より引用

 

「なるほど」という感じですが、銀行の提案にはここから先の話がありません。新設法人が、本業法人からの配当を原資として借入返済を行うということは、実質的な借入返済は本業法人が行っているということです。

 

本業法人は、この配当を出すためにいくら利益を上げなければならないのかということですが、配当は、税引後の資金で行います。法人税の実効税率を35%とすると、30億円の配当を行うためには、「30億円÷(1-0.35)≒46億1,500万円」となるため、約46億1,500万円の税引前利益を計上しなければなりません。しかもこの利益はキャッシュである必要があります。

 

さらにいえば、税引前利益46億1,500万円を出すために、いくらの売上が必要になるのかというと、この本業法人の売上高税引前利益率が10%だとすると、「46億1,500万円÷0.1=461億5,000万円」となります。なんと、本業法人は、自社株式の移動の返済のために461億5,000万円もの売上が必要ということです。

 

先ほどの例は売上高税引前利益率10%としましたが、売上高利益率はそれぞれの会社で異なります。売上高利益率がもっと低ければ、借入返済のためにもっと多くの売上高が必要になるのです。銀行から持株会社スキームを提案されて検討しているという方は、そのスキームを実行するために本業法人でいくらの売上や利益が必要になるのか、一度試算して検討すべきです。

持株会社スキームが与える長期的影響

繰り返しますが、銀行が提案する持株会社スキームは、実質的には本業法人が借入返済の負担をすることになります。自社株式の移動のために使った資金は、本業法人が新しい価値を生み出す役には立ちません。借入返済のための配当原資を確保するために、新たな設備投資や研究開発、新規事業への参入や人材確保といった事業拡大の機会を逃すことになるかもしれません。企業価値向上に大きな影響を及ぼし、他社に対する優位性を失ってしまう可能性もあります。

 

それだけではなく、会社経営が厳しい状況に陥り、資産の売却を迫られたり、再生支援を受けることになったりする恐れもあるのです。

 

 

川原 大典
みどり財産コンサルタンツ
代表取締役社長

 

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※本連載は、川原大典氏の著書『銀行の提案を鵜呑みにしない 事業承継の疑問』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・編集したものです。

銀行の提案を鵜呑みにしない 事業承継の疑問

銀行の提案を鵜呑みにしない 事業承継の疑問

川原 大典

幻冬舎メディアコンサルティング

長年にわたって情熱を注ぎこみ、経営してきた会社を次の世代にいかにして承継するか――。事業承継は企業経営者にとって避けては通れない大きなテーマの一つです。事業承継を進めるにあたっては、会計・税務・法務といった多分…

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