(※写真はイメージです/PIXTA)

事業承継は多くの経営者にとって重要な経営課題です。その際、信頼するメインバンクや長年の付き合いがある顧問税理士に相談するのは自然な流れといえるでしょう。しかし、銀行の提案には金融機関側のビジネスという側面があり、注意しなければならない点も少なくありません。本稿では、川原大典氏の著書『銀行の提案を鵜呑みにしない 事業承継の疑問』(幻冬舎メディアコンサルティング)より、自社にとって最適な選択肢を判断するための知識について詳しく解説します。

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税理士・会計士への相談は事後が多い

ここまで読んで、「お金の専門家である税理士や公認会計士に相談すれば、銀行の提案の良し悪しを判断してもらえるのでは?」と思った人もいるかもしれません。あるいは、「最初から事業承継の相談を税理士・公認会計士にすればいい」と感じた人もいるかもしれません。

 

確かに税理士や公認会計士は、事業承継に関する最適なアドバイザーになり得ます。しかし実際のところは、税理士・公認会計士の提案を受けずに事業承継が進んでいるケースが数多くあります。

 

経営者が税理士や公認会計士に事業承継の相談をするケースは、大きく2つあります。1つ目は、銀行から提案を受けたあとに相談するケースです。このパターンでは、すでに銀行の提案内容が固まっており、税理士や会計士は事後的なチェックや助言を求められることになります。2つ目は、銀行の提案を受ける前に、あらかじめ相談するケースです。

 

この場合、税理士や会計士は、事業承継の全体的な戦略立案に関われる可能性があります。実際には前者のケース、つまり銀行の提案を受けたあとに相談するケースのほうが圧倒的多数のように思います。私の経験では、およそ80%以上がこのパターンです。

 

このようなケースでは、顧問税理士や会計士が口を挟む余地はなく、銀行や外部コンサルタント主導で話が進み、融資の実行が終わってから事後処理だけ依頼されることも少なくありません。つまり、税務申告業務だけを任されるのです。

相続税を扱いなれた税理士・会計士は多くない

経営者が、事前に顧問税理士に相談しても、最適な提案を受けられない可能性もあります。なぜなら、必ずしもすべての税理士・会計士が相続税に関する十分な専門知識を持っているわけではないからです。

 

相続の申告業務は税理士の日常業務のなかでそれほど頻繁に発生するものではありません。日本税理士会連合会によれば、全国の税理士数は8万1696人(2025年3月末現在)です。これに対して、相続申告書が提出された件数は被相続人ベースで約15万人です(国税庁「令和5年分相続税の申告事績の概要」より)。8万人の税理士に対して1年間で15万件の相続税申告ですから、数字だけで見れば、1人の税理士が取り扱う相続税の申告は年間2件にも満たないということになります。

 

相続税の申告にすべての税理士が関わっているわけではないので、「相続税申告なんてめったにしない」とか「相続税申告をしたことがない」という税理士もたくさんいます。「相続税専門」をうたう税理士事務所がある理由もここにあります。

 

多くの会計事務所は、基本的には法人税と所得税の申告に特化しています。相続税に関する案件はごくまれにしか発生しません。年に数件程度、あるいは数年に一度というペースでしか相続税の申告業務は行いません。

 

このような状況では、相続税に関する知識やスキルを維持・向上させることが難しくなります。そのため、めったに扱わない相続税については、税制改正や判例の動向、複雑な財産評価の方法など、案件ごとに改めて調査・学習することが必要になるのです。

 

つまり、会計事務所の能力不足ということではなく、専門分野が違うということです。内科医として優秀でも外科手術はできないということと同じです。

 

経営者は、自分にとって人生で最も重要な相続・事業承継の対策立案が、顧問税理士にとっては「レアケース」となる場合が少なくないということを肝に銘じておかなければいけません。

 

 

川原 大典
みどり財産コンサルタンツ
代表取締役社長

 

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※本連載は、川原大典氏の著書『銀行の提案を鵜呑みにしない 事業承継の疑問』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・編集したものです。

銀行の提案を鵜呑みにしない 事業承継の疑問

銀行の提案を鵜呑みにしない 事業承継の疑問

川原 大典

幻冬舎メディアコンサルティング

長年にわたって情熱を注ぎこみ、経営してきた会社を次の世代にいかにして承継するか――。事業承継は企業経営者にとって避けては通れない大きなテーマの一つです。事業承継を進めるにあたっては、会計・税務・法務といった多分…

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