(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢者の施設入所は、「安心」と引き換えに日常の自由や人とのつながりを失うリスクもはらんでいます。身体のケアが整っていても、精神的なケアが十分でないと、入所後に孤独感や不安を深めてしまうことも。家族の支え方やコミュニケーションの取り方によって、その後の生活の質が大きく左右されることがあります。

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「やっぱり家がいい」…父の涙のワケ

8月上旬、都内在住の会社員・山口拓也さん(仮名・45歳)は、特別養護老人ホームに入所したばかりの父・浩一さん(仮名・78歳)からの電話に、思わず動揺しました。

 

「……帰りたい。ここ、寒いし……話せる人もいないんだ」

 

受話器の向こうで涙声になった父は、まるで幼子のように訴えてきたといいます。

 

浩一さんは、数年前に要介護2の認定を受けて以来、自宅でひとり暮らしを続けていました。しかし最近は転倒が増え、家での生活に限界を感じた拓也さんが、兄弟と相談してホーム入所を決断したばかりでした。

 

浩一さんが入所したのは、比較的新しく設備も整っている施設です。食事や入浴も丁寧にサポートされており、スタッフの対応にも問題はありませんでした。

 

「正直、父の言葉を聞いたとき、何を言っているんだろうと思いました。ようやく安心してもらえる環境を整えたのに…と。でも、面会に行ってその理由がわかりました」

 

入所3日目、施設を訪れた拓也さんが見たのは、ベッドの上で無言のまま虚ろな目をした父の姿でした。

 

個室の中にはテレビもありましたが、電源は切られたまま。職員は必要以上の会話を避け、機械的に業務をこなしているように見えたといいます。

 

「人と会話する機会がほとんどなかったんです。誰とも目を合わせない日が続けば、気力も失われますよね」

 

施設への入所は、家族にとっても本人にとっても「安心できる選択」のはずでした。しかし現実には、集団生活の中で孤立を感じる高齢者は少なくありません。

 

特に要介護1〜2程度の軽度の介護度の方は、身体の自由がある程度残されているぶん、「やることがない」「誰とも話せない」といった精神的なストレスを抱えやすい傾向にあると、介護福祉士の川上さん(仮名)は語ります。

 

「施設に入れたからといって、すべて安心ではないんです。むしろ、入所後に孤独感が強まり、食欲や体力が急激に落ちる高齢者もいます。特に、家族と会えない日が続くと悪化しやすい」

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