「お金はあるはずだった」…安心が揺らいだきっかけ
誠一さん(仮名・66歳)と妻の冴子さん(仮名・64歳)は、退職後、いわゆる「余裕のある老後」を迎えたはずでした。
夫婦の金融資産は約5,000万円。住宅ローンは完済済みで、年金も夫婦で月24万円ほどあります。
「贅沢をしなければ問題ない。むしろ、少しゆとりがあるくらいだと思っていました」(誠一さん)
冴子さんは結婚後、30年以上専業主婦として家庭を支えてきました。子育てがひと段落した後も、パートなどには出ず、家のことを中心に生活してきたといいます。
「働く必要はないと思っていましたし、夫も“ゆっくりしていればいい”と言ってくれていました」
そんな穏やかな日々に変化が訪れたのは、家計の見直しがきっかけでした。定年後しばらくは、旅行や外食なども楽しんでいましたが、あるとき誠一さんが通帳を見ながらつぶやきます。
「思ったより減ってるな…」
それまで「余裕がある」という感覚で過ごしてきた夫婦にとって、その一言は小さくない違和感でした。
総務省『家計調査(2025年)』によると、65歳以上の夫婦のみ無職世帯の平均消費支出は月26万3,979円で、可処分所得を上回る赤字構造となっています。つまり、多くの世帯で貯蓄の取り崩しが前提となっているのです。
「数字としては分かっていたつもりでした。でも、“自分たちは大丈夫”と思っていたんですよね」(誠一さん)
さらに追い打ちをかけたのは、予想外の支出でした。自宅の外壁補修、給湯器の交換、そして医療費の増加。いずれも一度に数十万円単位の出費です。
「一つひとつは仕方のない支出なんですが、重なると一気に現実味が出てきました」(冴子さん)
この頃から、冴子さんの中である思いが芽生え始めます。
「このままでいいのかな、と」
