追遺産分割協議書を目前にした兄「ハンコは押せない」
遺産分割協議が整わないと、口座は凍結されたままになり、名義変更もできません。Aさんの母親は、隣に住むAさんのサポートがあるため、衣食住には困りませんでしたが、もし近くにAさんがいなければ、どんなに大変だっただろうかとAさんは考えました。だからこそ、兄には、近くにいることの重要性を理解してほしかったのです。
遺産分割の話し合いは、次第に兄と妹がこれまでの不満や思いをぶちまける場へと変わっていきました。
それでも、なんとかAさんの考える内容で作成した遺産分割協議書ができあがりました。この協議書には、相続人全員の印鑑証明書を添えた実印での押印が必要です。改めて家族で集まる場が設けられました。
兄も一度は気持ちが落ち着いたものの、遺産分割協議書を目の前にし、「ここに押印すると、これで決まってしまう。本当にいいのか?」と改めて自問します。そして、やはり不満が残ることに気づき、結局「これでは納得できない。ハンコは押せない」と告げました。
やっとの思いで作成した協議書も振り出しに戻り、涙するAさん。それをみていた母も、複雑な気持ちを抱えていました。
しかし、この話し合いを機に、お互い納得のいくものだけを分割し、残りは母親が受け継ぐという形で合意に至りました。配偶者がいる場合の相続では税額軽減があるため、税額は大幅に抑えられます。しかし、だからといって配偶者がほとんど相続してしまうと、そのあとの二次相続に悪影響がおよびます。のちに母の相続が発生した際は、配偶者の税額軽減が使えないのでその分税金が高くなるからです。
本来はそういった二次相続も考慮して遺産分割協議を行う必要がありますが、現実はそのように効率的な話し合いを進めることは難しいものです。なにより、家族の気持ちが大切であり、効率を重視するあまり、関係が壊れてしまっては本末転倒でしょう。
その後、遺産分割協議も無事に整い、名義変更と相続の申告を済ませることができました。
この一件で、Aさんと兄は以前よりも仲良くなりました。父親の死をきっかけに、お盆や正月にしか集まらなかった家族が、頻繁に顔を合わせるようになったのです。
「喧嘩するくらいに話し合えていたほうが、お互い気持ちがいいし仲良くできるんだな」とAさんは思いました。
大人になるときょうだい喧嘩はあまりしなくなるものですが、それが仲が良いことを意味するとは限りません。子どものころは喧嘩をすることでわだかまりが解消されましたが、大人になると環境も変わり、お互いの気持ちを伝えられずにすれ違うこともあります。
だからこそ、「うちは仲が良いから大丈夫」と過信せず、日ごろから顔を合わせて話し合うことが非常に大切なのです。
税務調査を録音することはできるか?
相続税の「税務調査」の実態と対処方法

