(※写真はイメージです/PIXTA)

いつの時代もなくならない相続トラブル。親/子ども/きょうだいと、死後のことを話すのは気まずい……。といった声は多いものですが、生前対策を怠ってとんでもないトラブルに巻き込まれる例が相次いでいます。本記事では実際の事例を紹介し、相続対策の基本をみていきます。

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「家族だから大丈夫」という落とし穴

「えっ、実家が売られてる?」

 

70歳の田島紀子さん(仮名)は、思わず目を疑いました。届いたのは、法務局からの登記変更通知。そこには、亡くなった母親名義だったはずの実家が、一時的に兄の単独名義を経て、すでに第三者へと所有権が移転されていることが記されていたのです。

 

さらに確認すると、家はすでに売却され、買主がリフォーム工事を始めていました。

 

長年「うちは相続では揉めないはず」と思っていた紀子さんにとって、それは“相続の現実”に直面する衝撃的な瞬間でした。

 

母親の死後、紀子さんは兄から「実家は自分が管理しておく」と言われていました。とくに疑問も抱かず、遺産分割協議や登記の話も先延ばしにしていたといいます。

 

ところが、その内々の話が仇となりました。

 

相続人全員の協議や同意なしに不動産の名義変更(登記)が行われてしまうケースは、実は少なくありません。たとえば、

 

●兄が自筆の遺言書を用意していた

●遺産分割協議書に妹の名前を無断で記入・押印していた

●相続人全員の関与がないまま、単独で登記申請をした

 

といった経緯がある場合、第三者に売却された時点で取り戻すことは極めて難しくなります。

 

また、買主が「正当な手続きで取得した」と信じていれば、民法の「善意の第三者」ルールにより、法的に保護される可能性もあります。

 

こうしたトラブルの背景には、「相続登記が義務ではなかった」という長年の制度上の問題もありました。これまでは、相続による不動産の名義変更(相続登記)は任意だったため、多くの家庭で後回しにされ、放置されたままのケースが目立っていたのです。

 

しかしこの状況を受けて、2024年(令和6年)4月から相続登記が義務化されました。これにより、

 

●不動産を相続した人は、取得を知ってから3年以内に登記手続きをしなければならない

●違反すると10万円以下の過料が科される可能性がある

 

といった新たな制度が施行されています。

 

制度変更の目的は、所有者不明土地の増加や、今回のような相続トラブルの未然防止です。今後は、相続発生後に迅速に登記することが、法的にも求められる時代となっています。

 

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