(※写真はイメージです/PIXTA)

「親の家は、いずれ自分が相続するもの」子のそんな期待とは裏腹に、親は病気や介護の費用を捻出するため、自宅を売却したら……。親にとっては尊厳ある老後を守るための選択ですが、子にとっては「当てにしていた財産」を失うことになり、この認識のズレがトラブルの火種となりかねません。本記事では、波多FP事務所の代表ファイナンシャルプランナー・波多勇気氏が、野村さん(仮名)の事例とともに親の終の棲家問題に係る相続の注意点を解説していきます。※プライバシー保護の観点から、相談者の個人情報および相談内容を一部変更しています。

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有料老人ホーム入居を決めたワケ

「こんなに静かで、紅茶の味まで違って感じるのよ」

 

日曜日の午後、神奈川県にある有料老人ホームのラウンジにて。野村敏夫さん(仮名/78歳)と妻の千代子さん(仮名/75歳)は、小さなティーカップを手に優雅な時間を過ごしていました。

 

2人の月々の年金収入は合わせて約18万円。かつては都内に築35年の持ち家があり、住宅ローンも完済。老後はその家で静かに過ごすはずでした。

 

しかし2年前、千代子さんが脊椎を圧迫骨折し、入退院を繰り返すようになったのです。日々の生活で転倒リスクが高まり、2階の寝室に上がるのも困難に。要介護1と判定されたことで、敏夫さんは決断を迫られました。

 

「老老介護は無理がある。僕が倒れたら共倒れだ」

 

その言葉に、千代子さんも静かにうなずきました。そして二人で話し合った末、長年住んだ自宅を売却し、介護付き有料老人ホームへ移ることを決めたのです。

自宅売却に怒り…長男「相続するつもりだったのに」

入居に必要だった費用は、一時金900万円、月額利用料が23万円。年金だけでは到底賄えず、まとまった資金が必要でした。野村家の持ち家は、土地付きで査定価格は約4,500万円。売却すれば十分な資金が得られると判断した敏夫さんは、地元の不動産会社を通じて売却を実行します。

 

しかしこの動きに猛反発したのが、長男の隆司さん(仮名/42歳)です。

 

「なんで相談なしに売っちゃうんだよ! あの家は僕らが相続するつもりでいたのに!」

 

隆司さんは都内で会社勤めをしており、妻と小学生の子ども2人を抱えた4人暮らし。都心でのマンション購入を検討していた矢先、自分たちが将来相続すると思っていた「親の家」が消えたことに大きなショックを受けたようです。

 

「俺たちには相談もなく、勝手に人生設計を変えられた気分だよ」

 

それでも、敏夫さん夫婦は冷静にこう答えました。

 

「いまを生きる私たちが、尊厳を持って暮らせる場所を選んだだけよ」

 

「あなたたちに頼るつもりはない。だからこそ、自分たちで解決したの」

 

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※プライバシーのため、実際の事例内容を一部改変しています。

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