(※写真はイメージです/PIXTA)

年金月20万円、貯金2,000万円——「老後資金は十分」と思っていた夫婦が、まさかの決断を迫られました。進む高齢化のなか、医療費や住宅維持費、将来の介護に備えた“現実的な判断”とは。制度や事例とあわせて、今後の暮らし方を考えます。

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“万全だったはず”の老後プラン

「まさか、自分たちがこんな決断をすることになるなんて、思ってもみませんでした」

 

そう語るのは、都内近郊に暮らす68歳の田村和夫さん(仮名)と、同い年の妻・悦子さん(仮名)です。和夫さんは大手メーカーを60歳で定年退職し、現在は年金暮らし。夫婦の年金支給額は合わせて月約20万円。さらに貯金も2,000万円あり、“老後資金は十分”と思われていました。

 

それでも、彼らは30年以上住み続けた自宅を手放し、賃貸への転居を決断しました。いったい、何が彼らをそうさせたのでしょうか。

 

「退職後は、自宅でのんびり過ごすつもりでした。住宅ローンも完済していたし、年金で日々の生活費はまかなえる。いざというときは貯金を取り崩せばいい。正直、不安なんてありませんでした」(和夫さん)

 

子どもはすでに独立し、夫婦ふたりの穏やかな暮らし。生活費を抑えれば毎月黒字で、週一回の外食や旅行がささやかな楽しみでした。

 

──しかし、その“安心”は、思いがけず揺らぐことになります。

思わぬ「3つの誤算」

1. 修繕費と固定資産税がじわじわと

 

「持ち家があれば老後は安心」——そう信じていた田村さん夫妻ですが、築35年の戸建てはあちこちにガタがきていました。

 

給湯器の故障に始まり、雨漏り、外壁の剥がれ、排水管トラブル……。毎年のように修繕費が発生し、まとまった出費になることも。

 

さらに固定資産税もじわじわと家計を圧迫し、年間10万円超。

 

「ある年に150万円ほどの修繕費がかかったときは、本当に焦りました」(悦子さん)

 

2. 医療費の増加

 

65歳を過ぎた頃から、和夫さんは糖尿病と診断され、定期的な通院と薬代がかさむようになりました。

 

「通院だけなら月1〜2万円ですが、検査や入院、予防接種などを合わせると、年間で20〜30万円になることもあります」(悦子さん)

 

夫婦ともに「健康が取り柄」だったものの、年齢を重ねると“ちょっとした不調”が重なり、通院の回数も増えていきました。

 

3. 子どもが家を継がなかった

 

「いずれは娘夫婦が戻ってきてくれたら…」と、漠然と考えていたという田村さん。

 

しかし娘はすでに地方で家庭を築いており、「こっち(娘夫婦)で見ようか?」と一度は言われたものの、最終的には「やっぱり難しい」と断られました。

 

貯金が1,500万円を切った頃、悦子さんが不安を口にしました。

 

「このままでは、いざというときに老人ホームにも入れないかもしれない」

 

維持費がかさむ持ち家を手放し、元気なうちに身軽になっておくべきではないか──。

 

夫婦は悩み抜いた末、家の売却を決断。駅近のUR賃貸マンションに転居しました。売却益と手元の資金を合わせ、現在の貯金は約2,200万円に回復しています。

 

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