ゴールドオンライン新書最新刊、Amazonにて好評発売中!
『司法書士が全部教える 「一人一法人」時代の会社の作り方【基本編】』
加陽麻里布(著)+ゴールドオンライン (編集)
『富裕層が知っておきたい世界の税制【カリブ海、欧州編】』
矢内一好 (著)+ゴールドオンライン (編集)
『司法書士が全部教える 「一人一法人」時代の会社の作り方【実践編】』
加陽麻里布(著)+ゴールドオンライン (編集)
シリーズ既刊本も好評発売中 → 紹介ページはコチラ!
「ご両親をしっかり支えてあげてください」介護に理解ある上司
「人事から聞きましたよ、家族の介護で時短勤務を希望していると。大変だと思いますが、大切なご両親をサポートして差し上げてください。なにか困ったことがあったら、いつでも遠慮なく申し出てくださいね」
親の介護のために「時短勤務」を申し出た部下の遠藤さん(仮名)に、そういってさわやかな笑顔を見せたのは、営業部の副部長、梶原憲之さん(仮名・56歳)でした。
「大変恐縮ですが、どうかよろしくお願い申し上げます…」
「いやいや、そんなに心配しないで! 大丈夫、部署のみんなが応援していますよ。会社のシステムも、これからの時代に合わせてアップデートしましょう。ご両親をしっかり支えてあげてください。ね?」
遠藤さんは上司である梶原さんの温かい言葉に胸を詰まらせ、再度頭を下げました。
「本当にありがとうございます。梶原さんのご両親はお変わりなく…?」
「うん。うちはね、親父が10年前に亡くなっているのだけれど、80歳を超えてた母親は健在です。長男は僕なんですが、頼りになる独身の弟が見てくれましてね…」
そうですか、それは安心ですね…と上司の言葉に返答をした遠藤さんは自席へと戻っていきました。
「弟がいてくれてよかった」「お義母だってうれしいわよね」
憲之さんは、都内の中堅企業に勤めるサラリーマンで、年収750万円ほどの中間管理職です。家族はパート勤めの妻と、すでに独立したひとり息子がいます。駅近のファミリータイプの分譲マンションはすでにローンを完済し、いまは夫婦2人、老後資産形成を頑張るべく、スパートをかけているところだといいます。
そんな憲之さんには、4歳年下の弟・英樹さん(仮名・52歳)がいます。英樹さんも都内の企業に勤める中間管理職ですが、兄と違うのは、これまでずっと独身だという点です。
「本当に、英樹がいてくれてよかった…」
「そうね、それにお義母さんだって、英樹さんがお世話してくれたらうれしいわよね」
「あいつはかわいがられてきたからな」
「末っ子ですもんね」
憲之さん夫婦の間では、しばしばこのような会話があります。
英樹さんも憲之さん同様、都内に暮らしています。住んでいるのは会社近くの単身用の賃貸マンションですが、ここ2年ほど、土曜日か日曜日のどちらかと、ときには平日夜にも用があれば、横浜市の郊外のマンションに暮らす81歳の母親・輝子さん(仮名)の世話のため、マイカーで通っているのです。
憲之さんは、会社の同期や部下と飲みに行くたび、弟自慢をしています。
「うちの弟はできたやつでね、ひとりでおふくろを見てくれるんだ。独身で身軽だし、おふくろもその点、所帯持ちの俺より気を使わなくていいからさ…」
「この間もおふくろに電話したら〈テレビとエアコンが古くなったから、英樹に頼んで買ってきてもらった〉といっていてね。家族がいないと、お金が自由に使えるからうらやましいよな」
発言を聞いた部下は目を丸くして質問を返しました。
「そうなんですか! でもそれ、弟さんから不満が出ませんか…?」
部下の言葉に、憲之さんはあっけらかんと言いました。
「ぜーんぜん。その代わり、お袋の介護には口を挟まない。おふくろのマンションも、貯金も、全部あいつにやるって決めているの」
「あ、ああ、そうなんですね…」
「所帯を持った僕と独身の弟とは生活の次元が違うから、どちらが大変とか、そんな比較はできないけどさ。でも、おふくろの件は、大船に乗ったつもりであいつに委ねているんだ…」
飲み会の場での、憲之さんの母親の介護と相続の話はそれで終わり、別の話題へと移っていきました。
