今のままでは手取りは増えない
佐藤:可処分所得の動きって、やっぱり気になりますよね。増えているのか減っているのか……。
井堀:実質的に手取りがどれだけあるかは家計にとって大事だね。特にこれから社会保障の保険料負担がどれぐらい増えるかがポイントだ。仮に経済成長がプラスで将来世代は所得が増えても、それ以上に保険料や税金が上がれば、可処分所得は増えないからね。
佐藤:今後も賦課方式を続けると、現役世代の保険料がどんどん上がりそうですね……。
井堀:うん。少子化で支える側が減る一方、高齢者が増えれば、負担が重くなる。どれだけ経済成長があっても、その恩恵を社会保障の負担増が吸い上げる形になって、可処分所得の伸びは期待しづらい。
佐藤:世代間の損得を比較する指標ってあるんですか?
井堀:それを明らかにするための手法として、世代間会計という考え方がある。これは経済成長率、人口構成の変化、財政赤字の状況など、社会保障財政に関わる要素を前提にしたシナリオを作り、各世代について一生の間での負担(保険料や税金)と給付(年金や医療など)を差し引きして、トータルで損か得かを試算するものなんだ。
佐藤:世代ごとの生涯負担と生涯受益を計算するわけですか。日本での試算結果はどうなんですか?
井堀:日本の場合、少子高齢化が進んでいる影響で、若い世代や将来世代ほど支払う額」受け取る額となって、損になることが多いって結果が出ている。一方、現在の高齢世代は現役時代の負担が少なかったわりに、高齢期の給付が多いから、トータルで得しているっていう試算が多い。
佐藤:世代間会計を見ると、高齢者ほど得で、若い世代ほど損だって結果になると……。
井堀:ある試算では、70歳以上の高齢者は生涯で見れば受益が負担を上回る。逆に65歳以下は負担のほうが多く、年齢が若いほど差額が大きい。生涯で支払う保険料や税金より生涯で受ける給付のほうが少なくなる、ということだね。
「誰が得をして誰が損をしているか」と考えることに意味はあるのか
佐藤:世代会計で現役世代が損をして、高齢世代が得をしているって見方についてですが、実際どれくらい有用なんでしょう?
井堀:特に急速な少子高齢化を迎えている国では、社会保障の賦課方式が実質的に若い世代の負担を増やしていることが可視化される点で、参考になる。
佐藤:つまり若者が高齢者を支える構造がはっきりするわけですね。でも、それが不公平だとは限らないんですよね?
井堀:そう。一方で、経済成長が順調なら、若い世代や将来世代の所得水準が高齢者世代より上がるかもしれない。すると多めの保険料や税金を払っても、なお可処分所得が高くなる世代になる可能性もある。だから一概に不公平とは言えない。要するに、どれだけ経済が伸びるか次第なんだよ。
佐藤:なるほど。もし今後も高い成長が見込めれば、損どころか若い世代のほうがむしろ豊かになる可能性もある、ってことですね。でも、今の日本は経済成長が低いし、マイナス成長のシナリオだって考えられますよね。
井堀:そこが問題だ。成長率が上がらないまま少子高齢化が進めば、賦課方式の社会保障を維持するのは厳しいね。
井堀利宏
東京大学名誉教授
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