(※写真はイメージです/PIXTA)

誰にでも、心の奥底にしまい込んだ秘密の一つや二つはあるものです。しかし、あなたの秘密は、あなたの死後も守られるとは限りません。特に、相続という法的な手続きが始まったとき、これまで隠し通してきた過去が、残された家族の知るところとなる可能性も……。本記事では、FP相談ねっと・認定FPの小川洋平氏が、後藤さん(仮名)の事例とともに相続トラブルの実情をみていきます。

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亡き夫の母と暮らす女性

後藤夏美さん(仮名/69歳)は、90歳になる義母と二人で暮らしています。夫は5年前に病気で他界しましたが、結婚以来、義母からは実の娘のように可愛がられてきました。

 

亡き夫とのあいだには子どもが授からなかったものの、義母は変わらずに夏美さんを大切にしてくれ、夏美さんも義母に恩を感じています。「夫が亡くなったいまでも、この義母だけは最期まで見届けたい」と語っていました。

 

もの静かで口数も少なく、感情をあまり表に出さない後藤さんでしたが、実は長年誰にも語られなかった“ある秘密”があったのです。夫にも義母にも話せなかったその秘密は、結婚前の出来事でした。

明かせない「子ども」の存在

40年以上前、夏美さんがまだ20歳だったころのことです。学生時代に交際していた大学生の男性とのあいだに子どもを授かりました。

 

妊娠が発覚したときにはすでに堕胎が難しい時期。相手方の男性は保守的で体裁を気にする家で、「世間体が悪い」として結婚を反対されました。相手方の男性自身も責任を取ろうとせず、親のいいなりに……。両親に頼ることも難しい当時学生だった夏美さんは、子どもを育てながら収入を得る術もなく、泣く泣く産んだ子を養子に出すという選択を迫られたのです。

 

心に深い傷を残したまま、その後は過去を封じ、普通の人生を歩むことに努めてきました。夫とは28歳のころに見合いで出会い、穏やかな家庭を築いてきましたが、当時のことはずっと胸の奥にしまい込んでいたのです。

 

ところが、8年ほど前のある日、養子に出した息子が戸籍や調査を通じて母を探し、連絡をしてきました。養子に出してから初めて会った息子はすでに家庭を持ち、立派に成長していました。夫には話せなかった後藤さんでしたが、その後は度々援助を行い、出産や住宅購入の際には、夫が遺してくれた保険金の一部をこっそりと援助してきたのです。

 

よくしてくれた義母にもいえないまま、罪悪感と感謝のはざまで「墓場まで持っていこう」と心に誓っています。

 

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