海外投資家にも波及するリスク
この制度は、不法移民への対応という枠を超え、海外から米国へ投資する個人にとっても深刻な懸念材料となります。
たとえば、海外投資家が米国に投資した資金を本国へ戻す場合、それは本来、自らの資本の回収であり、第三者への送金とは性質が異なります。しかしながら、金融機関がこれを単なる送金と見なし、課税対象として扱ってしまえば、実質的には資本移動の自由が制限されることになります。
このような事態は、資本流出に課税する「資本規制」と見なされかねず、米国市場への投資意欲を冷やすリスクをはらんでいます。自由な投資環境を維持したい米国にとっては、本来避けるべき構図です。
トランプ政権はこの送金課税によって、今後10年間で260億ドル(約3.8兆円)の税収増を見込んでいます。しかし、2010年に施行された外国口座税務コンプライアンス法(FATCA)の際と同様、IRS(米内国歳入庁)への報告義務が金融機関に大きな負担を強いることは避けられません。
当時と同様に、制度を維持するための事務コストや法的リスクが、政府の得る税収を上回る可能性も指摘されています。送金者・金融機関双方に対する過剰な規制は、制度の実効性を損なうばかりか、市場の健全性にも悪影響を与えかねません。
この法案が掲げる「不法移民対策」という目的自体には一定の理解が集まる一方で、その手段としての送金課税が適切かどうかには疑問が残ります。課税を強化することで得られる効果と、制度導入によって発生する金融システムへのコスト・副作用のバランスを慎重に検討する必要があります。
真に効果的な移民政策を実現するのであれば、こうした一律課税型の制度に固執するのではなく、より現実的で実効性のある方法を模索すべき時期にきているのではないでしょうか。
税理士法人奥村会計事務所 代表
奥村眞吾
