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医師も患者も疲弊する診察室
診察室を訪れるとき、ほとんどの人は「しっかりと話を聴いてほしい」と願っています。自分の身に起きていることのすべてを説明し、それを医師に理解してもらいたいという思いは、単に症状を伝えるという行為にとどまりません。
その背後には、「何か重大な病気だったらどうしよう」「見過ごされたら取り返しがつかない」といった不安や、「以前、きちんと話を聴いてもらえなかった」という過去の体験が影を落としていることもあります。
医師に話を聴いてもらうことは、患者にとって単なる情報提供ではありません。それは、「自分の存在が尊重され、大切に扱われている」という感覚を確認する時間でもあります。そしてこの感覚こそが、医師への信頼の土台となり、医療への安心感へとつながるのです。
「よい医師とは、患者の話をよく聴く医師である」――この考え方は、多くの人にとってごく自然なものでしょう。実際、「この先生は丁寧に話を聴いてくれた」という印象は、診断や処方の内容よりも強く心に残るものです。「自分の話をきちんと聴いてもらえた」と感じることが、「よい医療を受けた」という満足感に直結しているのは、医療現場に立つすべての医師が実感していることです。
私自身も、かつてはその価値観を診療の最優先事項としていました。とくに開業当初は、目の前の患者の訴えを一つ残らず受けとめようと努め、言葉にならない感情や背景をもくみ取ることに全力を注いでいました。
診察室では、患者の話に耳を傾けながら相槌を打ち、その人なりのペースで語られるエピソードを丁寧に受け止める。そうした姿勢が安心感を生み、よい医療につながると信じていたのです。
しかしその結果、午前の診療が午後に食い込み、昼食もそこそこに午後の診察をこなし、夜遅くまで診療が続く日々が続きました。職員にも疲労が蓄積し、院内の空気は次第に重たくなっていきました。とくに夕方以降は、私自身の集中力も明らかに落ち、診療の精度にも悪影響が生じるようになりました。
やがて、患者からの声も変化していきました。「丁寧に診てもらえてよかった」という感謝の言葉に代わって、「待たされた」「話を途中で切られた」「なんだか慌ただしかった」といった不満が耳に入るようになりました。私は次第に、「すべての患者の話をじっくり聴くこと」が本当によい医療なのか、疑問を抱くようになったのです。
そんなある日、午後の診療が長引き、夜10時半を過ぎたころのことでした。診察室に最後に入ってきたのは、耳から膿を流している幼い子どもと、その子を連れた母親でした。子どもは、ぐったりと眠っていて、母親の顔にも疲れがにじんでいました。
その母親は仕事の都合でどうしても早い時間に来院することができず、ようやく一日の終わりに医院に足を運べたのです。診察が終わると、母親は「こんな時間まで本当にすみません」と申し訳なさそうに頭を下げました。その情景は、今でも私の心に深く残っています。
私は、自分の診療スタイルがこの親子にこのような時間帯での受診を強いていたことに気づきました。そして、すべての患者の話を丁寧に聴くという姿勢が、結果として社会的に弱い立場の人たちに大きな負担をかけていたことに思い至ったのです。
本来守るべき最も弱い立場の人々が、いちばん遅い時間に診察を受けなければならない――これは、私が目指していた「よい医療」なのだろうか。理想と現実のはざまで、私は大きな問いを突きつけられた気がしました。
患者の思い、医師の思い
外来診療の現場には、厳しい制約があります。とくに開業医では、1日に100人以上を診察することも珍しくありません。そうなると、1人あたりにかけられる診察時間はどうしても限られてしまいます。
患者数が増えれば増えるほど待ち時間は長くなり、不満も蓄積していきます。その結果、医師は一人ひとりにかける時間を削らざるを得ず、診断に必要な情報を収集し、説明し、記録するという一連の作業を、わずか数分で完結させなければなりません。
もちろん医師にも葛藤があります。「もっと話を聴いてあげたい」「不安をくみ取りたい」という思いがある一方で、「時間内にすべての患者に対応しなければならない」という現実。
集中力と判断力を維持しながら適切な診療を行うためには、診察のテンポと流れを守ることが非常に重要なのです。
患者と医師のすれ違い
患者が「話を聴いてもらえなかった」と感じるとき、それが必ずしも医師の無関心や不誠実さによるものとは限りません。むしろ多くの場合、医師は限られた時間の中で必要な情報を引き出そうと、頭の中で精密な構成を描いています。
たとえば、「どこが痛いのか」「いつからか」「どんなときに悪化するか」といった情報を短時間で把握するためには、患者のはなしが整理されていることが重要です。しかし、話が逸れたり冗長になったり、カルテ記載中に別の話題が挟まったりすると、医師の思考は分断され、診断の精度が落ちてしまいます。こうして診察が長引き、後の患者の待ち時間が延びる。結果として、診療全体の質が低下していくのです。
つまり、診療の質の低下の原因は「話を聴こうとしない医師」だけの問題ではなく、「医師の思考」と「患者の語り」のすれ違いが大きく関与しているのです。
共に医療をつくるという視点
診察で最も大切なのは、医師と患者が協力し、限られた時間の中で最善の医療を実現することです。医師は必要な情報を得ようと問いかけ、患者はそれに応え、簡潔に自らの症状を伝える。この協力関係のなかにこそ信頼が生まれ、診療の精度が高まり、医療の質が向上します。そして、すべての患者が適切なタイミングで診療を受けられる、持続可能な診療体制の実現に繋がります。
「話を聴いてもらえなかった」と一方的に失望するのではなく、「どうすれば伝わるか」「どうすれば医師の力を引き出せるか」という視点を持つこと。それが、患者にできる最も有効な医療参加のあり方であり、まさに「患者力」なのです。
宮澤 哲夫
みやざわ耳鼻咽喉科 院長
医師・薬剤師
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