今回は、株や為替取引で使われる「テクニカル分析」はビットコイン取引においても通用するのか、具体的に探っていきます。※本連載は、金融情報全般を扱う大手情報配信会社、株式会社フィスコ監修の『Jマネー FISCO 株・企業報 2016年秋冬号』(実業之日本社)の中から一部を抜粋し、ビットコインとブロックチェーンの基本のおさらいから、投資対象としてのビットコイン、さらにブロックチェーン技術の応用までを解説します(執筆:株式会社フィスコ所属アナリスト・田代昌之氏)。

現状、仮想通貨に対応するテクニカル分析ツールはない

ビットコインにある程度の流動性が確保できていれば、株式や為替の売買と同じようにテクニカル分析を駆使して投資を実施することは可能だ。その際、ベースとなるのは、オーソドックスな移動平均線となる(下記図表参照)。

 

 

その理由は2つ挙げられる。1つは、シンプルな移動平均線以外、対応しているテクニカル分析ツールがまだ存在していないことだ。

 

RSIやストキャスティクス、ボリンジャーバンドなどテクニカル分析の手法はさまざまであるが、見ている人がいなくては売買のタイミングは合致しない。一方、5日移動平均線が25日移動平均線や75日移動平均線を超えたタイミングは、ほぼどの投資家も見ているので追随することが可能である。

 

どれだけ使い勝手のいいテクニカル分析でも、現状のチャート分析ツールの状況を見る限り使用しにくいと言えよう。今後、チャート分析ツールが充実していけば、こうしたテクニカル分析も無視できない存在となるだろう。

 

2つ目は、ビットコイン取引を実施しているユーザーの多くが中国人であることだ。中国では移動平均線を駆使して分析をする投資家が多い。主だった理由は不明だが、使用している人が多いことで、売買タイミングは自ずと似てくる。

 

「25日移動平均線が75日移動平均線を上抜いたことから買いだ」と判断する人が多くなれば、そういった軌跡を残す可能性が高まる。つまりビットコインの値動きに大きな影響力を発揮するということになる。

 

今後、移動平均線以外のテクニカル分析が広がると、シンプルな値動きはなかなか確認できなくなるかもしれない。

発行額の半減期のタイミングを見極めれば…

ビットコインの総量は2100万コインと決められており、発行額(マイナーへの報酬)は約4年ごとに半減するようにプログラムされている。需要が変わらず、市場に新たに供給される量が減少するとモノの価格は上昇するため、半減期のタイミングでビットコインの価格は上がると言われている。

 

2016年春以降、ビットコインが上昇した背景として、発行額、つまり採掘(マイニング)によってもらえる報酬が半減する、4年に1度の半減期が7月10日頃に迫っていたこともあろう(上記図表参照)。

 

今後も「半減期」が到来するタイミングでビットコインの価格は上がる可能性が高い。ちなみに、次の半減期は2021年頃と推測されている。

 

ただ、ビットコインを投資対象と見るユーザーが多くなっていることから、なかには、上がりやすいと言われる半減期に向けて買いを入れた投資家が、半減期を通過したタイミングで材料出尽くしと判断して売却し、利益を確定するかもしれない。

 

値動きには心理状態も加味されることから、教科書通りにはいかない。株式投資や為替投資を実施されている読者には、理解できることだろうが、「噂で買って事実で売る」といった投資格言は、さまざまな思惑、投資家心理が交錯している以上、ビットコインにも当てはまるのかもしれない。

取引所ごとの価格差を利用した裁定取引も可能!?

「ボラティリティ」とは、少々聞きなれない用語かもしれないが、簡単に表現すると「(価格の)変動率」のことだ。金融業界では、値動きが激しいと「ボラティリティが高い」と言われる。最初にも述べたが、ビットコインは新興市場に上場したばかりの銘柄と同じくらい値動きが激しくなるときがある。つまりボラティリティが非常に高いわけだ。

 

ボラティリティが高いと、値動きで生じる「さや」を拾おうとする投資家が集まってきやすい。株式市場で値動きの乏しいガス株よりも、上下によく動くソフトバンクグループ株に関心が向かいやすいのと同じ理屈だ。ボラティリティが高いと短期的な売買を何度も繰り返す投資家が増えることから、売買代金は増加する傾向にある。

 

また、ボラティリティが高いことや、各取引所の信頼性や流動性の違いなどから、取引所によってビットコインの価格が異なるケースも多い。こうした価格差、つまり「歪み」を狙った売買が今後入る可能性はある。「裁定取引(アービトラージ)」という金融取引のことだ。

 

裁定取引は、1980年頃、米投資銀行で発達したヘッジファンドの運用手法の1つである。原理はいたって単純だ。

 

同一銘柄が複数の市場に上場されている場合には、同じ銘柄であるにも関わらず、価格に若干の乖離が生じることがある。この乖離は長期的には必ず乖離が修正されるので、高いほうを売って安いほうを買っておき、乖離が修正された時点で反対売買を行えば、高い確率で利益を出すことができる。

 

もっとも裁定取引は利ざやが非常に薄いことから、大規模な資金にレバレッジ(梃子の原理)をかける投資スタイルが多い。現在の流動性で、どこまで裁定取引による収益性を高めることができるかはわからないが、理論上、実施できる投資手法だと言えよう。

 

こうした売買を手掛ける投資家は、大規模な資金で運用することから、裁定取引が活発化すると流動性が増加し、スムーズな価格形成を手助けするプラス面もある。先に説明したファンダメンタル、テクニカル、需給といった側面とは若干違うが、値動きを考慮するうえでボラティリティは重要だ。

 

Jマネー FISCO 株・企業報 2016年秋冬号

Jマネー FISCO 株・企業報 2016年秋冬号

株式会社フィスコ

実業之日本社

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