ビットコインは「出来のよくない通貨」?
仮想通貨のトップを走るビットコイン。しかし、通貨として見たときには、まだいくつもの問題点を抱えている。そう話すのは早稲田大学の岩村充教授だ。
岩村氏はビットコインと通貨の未来を予見した書「中央銀行が終わる日」(新潮社刊)の著書であり、日銀出身の経済学者として、金融や通貨理論の第一人者でもある。
「仮想空間でお金のやり取りをするうえで、ポイントは権利者の入力であることをどう確認するかと、二重払いでないことをどう証明するかです」
「ビットコインは、前者については電子署名という既知の方法論で解決しています。後者については、中央管理者が存在すれば話は簡単ですが、マイナーの競争というアイデアで、中央管理者なしにそれを実現しているわけです。まさにコロンブスの卵といってもいい方法です」
「しかし一方で、マイナーが負わされる役割は非常に大きなものになります。それだけの報酬があるからマイニングが行われるわけですが、勝者になる確率はいかに大規模な設備をもってPOWを解くかにかかっていて、そのシステム費用と消費する電力は莫大なものになります」
「であるにもかかわらず、勝者に与えられるコイン数はほぼ4年に1度半減し、最終的には2100万枚で打ち止めとなってしまうんですね。こうした固定化したプログラムによって、価格が不安定で貨幣としては非常に使いにくいものになってしまっているのです」
「さらに言えば、取引の認証コストを新規コイン発行と一体化していることも問題だと思います。そういう意味でも、いってみればビットコインは、出来のよくない通貨なんです」
たしかに、初期にはパソコンの空き能力を使って行うことができたマイニングも、現在では本格的に組み上げた非常に規模の大きなハードウエアが必要となっている。そこで消費される電力量も相当で、マイナーたちは電気代や土地代の安い国に大規模な拠点を構えるほどだ。
ビットコインネットワークの50%以上を支えるには、設備投資と電気代を合わせて、2014年の時点で4億2400万ドルが必要との試算もあるほか、2013年の時点でビットコインのマイニングに必要電力は毎日15万ドルかかるとの報道もあった。
果たしてそれだけの投資に見合う報酬が、今後も期待できるのか。マイニングを止めないために、徐々に減っていく報酬を補う仕組みが構築できるのか。ビットコインのそういった問題点を指摘する声は後を絶たない。
これまでの金融政策が通用しないビットコイン
ビットコインのそうした問題点を解消するようなシステムをもった仮想通貨が、現在数多く出現してきていることも事実だ。
一方で、そうしたビットコインに続く仮想通貨は、冒頭にも書いたように、まだそれほど大きな勢力となり得ていないことも、また事実である。それは一体なにを意味するのだろうか。
「仮想通貨に理想の存在はない、ということなんです」と岩村氏は続ける。
「ビットコインのような通貨もあれば、それを改良したというさまざまな通貨もある。そのようにいろいろな仮想通貨が存在し、競争して、使う人にいくつもの選択肢がある、ということが、仮想通貨を語るうえでは大切なポイントなんです」
「中央集権的に管理されるものでなく、使う側が自由に選んで使えること。集中や収斂を求めずに多様性があること。それが仮想通貨のあるべき姿だと私は思います。理想の仮想通貨とは? という設問は、理想の冷蔵庫とは?とか、理想のジャケットは? とかと同じで、あまり意味がありません。使う人それぞれが好きなものを選べばいいのです」
オーストリアの経済学者フリードリヒ・ハイエク(1899〜1992年)が「貨幣発行自由化論」で説いたような、中央銀行は不要で通貨間の自由競争が許される世界。その中で最も健全で安定した通貨が発展していく。そんな状況が今、仮想通貨の世界で起こり始めている。そして、その世界で現在最も発展をとげているのがビットコインであることは紛れもない事実だろう。
「現在ビットコインの取引量が他を圧倒しているのは、現状ではビットコインがあればそれで足りている、いろいろ問題はあるけれど、ビットコインがまずは第一候補だと、多くの人が感じているということなのでしょう」(岩村氏)。
伝統的な金融資産でカバーしきれない要素をテクノロジーで補う。この構図がビットコインの利用者拡大の背景にあるのだろう。
ただ、関連した法律の成立などインフラ整備は始まったばかりだ。現在、日本銀行や欧州中央銀行がマイナス金利を導入するなど、これまでの金融政策とは異なる次元で金融市場は動いており、今までの常識では通用しない世界になりつつある。
そんな中、ビットコインを中心とした仮想通貨は、中央管理されない自由競争によって淘汰、整備されながら、私たちの生活に浸透してくることになるのではないだろうか。