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一番たくさんお金を入れた封筒がなくなった!
その不安が現実のものとなったのは、ある日の深夜のことでした。午前2時を回ったころ、美穂さんのスマートフォンの画面が着信を告げて光ります。表示されたのは「実家」の文字。胸騒ぎを覚えながら電話に出ると、聞こえてきたのは母・節子さんの泣きじゃくる声でした。
「美穂……どうしよう、お金がないの! どこを探してもないのよ……!」
明らかにパニック状態の母。美穂さんは急いでタクシーを拾い、実家へと駆けつけました。
リビングで茫然と座り込む母をなだめながら、2人の大捜索が始まりました。洋服タンスの奥、本棚の裏、冷蔵庫の中、仏壇の引き出し、薬箱の中……。これまで聞いていた隠し場所を一つひとつ確認しますが、母が「どうしても見つからない」という、一番大きな金額をまとめた封筒は見当たりません。
捜索が2時間を過ぎたころ、心身ともに疲れ果てた節子さんが、ふと顔を上げて呟きました。
「そういえば……。あの帯……」
その言葉に、美穂さんはハッとします。タンスの一番奥にしまい込まれていた、思い出の桐の箱。その中には、節子さんがお嫁入りに持参した礼装用帯が静かに眠っていました。
美穂さんが恐る恐る畳紙を解いて帯の間に手を入れると、指先に分厚い封筒の感触がありました。
「あった……! お母さん!」
しかし、安堵したのも束の間。そのずっしりとした重さに、美穂さんは思わず息を呑みます。中から出てきたのは、帯の間に収まりきらないほどの分厚い封筒が数束。
その中身を目にした瞬間、美穂さんは安堵よりも強烈なめまいに襲われ、動転しました。 そこには、優に数百万円はあろうかという現金の塊が。見つかった安堵と、目の前の現金が放つ異様なプレッシャーを感じました「お母さんが守ろうとしていたものは、これなの……?」。
節子さんがただの物忘れではなく、自らの資産を管理できなくなりつつあるという厳しい現実。そして、家の中に散らばる現金がもたらす本当のリスクを、美穂さんはこのとき、痛いほど実感したのでした。
タンス預金の主なリスク
節子さんのように、現金を自宅に保管する「タンス預金」は、2024年時点で50兆円規模ともいわれています。特に高齢者世帯では、現金を手元に置くことが「安心」につながる一方、その裏にはいくつものリスクが潜んでいます。
盗難・災害による損失
火災や地震、空き巣被害に遭った場合、現金はほとんど補償されません。火災保険でも現金の補償は20万円程度が上限となっているのが一般的です。
認知症発症時の混乱
本人が隠し場所を忘れてしまい、家族も把握できないまま現金が「消えてしまう」こともあり、相続時のトラブルなどにもつながりかねません。
資産価値の目減り
インフレが進むなか、現金を持ち続けることは、実質的な資産価値の低下を招く恐れもあります。

