税務署のスタンスを知っておこう
◆税務署は、法人から個人への資産移転を厳しい目で見ている
税務署は、法人から社長個人に動くお金に対してとても神経質です。いまは使えなくなりましたが、法人が加入する積立型の、保険料の半分が損金になる生命保険などは、最たる例と言えます。
なぜなら、法人が掛けたお金が一部損金となって、課税の繰延べが行われ、最終的には何らかの形で社長へ移転されてしまうことを意図的にできる節税商品だったからです。
この事態を重く見た税務署は、結局2019年7月以降に始まる契約からは保険料の損金算入が見直され、以前のような節税効果がなくなりました。
合法的な方法であっても、会社のお金を使って貯めたお金が社長個人へ移り、会社にも個人にもメリットがあるような状態に対して、税務署は快くは思っていないのです。
労働の対価として会社がお給料を支払う際も、きちんと行っているなら問題ありませんが、家族だから多めに払ってしまうようなことがあると、「家族だから、こんなに支払うのでしょう?」と、とても神経質に追求する時期がありました。
つまり、会社から個人にお金を移転するときには、慎重にしなければならないということです。
お給料は、仕事をしてもらった対価として、従業員に支払うものです。ですから、同じ仕事をしてもらっているのに、奥様には倍のお給料を支払うとすると、それはおかしな話ということになります。
法人から個人へ資産を移転するときには、きちんとした理由が必要です。働いたことへの対価であれば、当然ながら認めてもらえます。
でも、不公平感があったり、金融的な技術を使ったマジックのようなものを使ってお金を個人へ移したりすることは許さない、という考え方なのです。
◆マジックのような形での資産移転を、税務署は以前から認めていない
この税務署のスタンスは、ずっと前から変わっていません。
税務調査で実際にあったことですが、先ほどお話しした「損金計上できる積立型の生命保険」は、法律的にはまったく間違っていません。それでも、
「先生。これ、一応審理担当にかけますね」
と言ってきました。いまは、税務署の担当部署で誤りがないか、確認をとることを行っているようです。
これまで日本全国で否認された例がないことは承知のうえで、「審理担当」に確認させる形で、納税者に心理的負担をかけるような行動をとられました。
そして、審理担当に確認させたあとで「大丈夫でした」とお咎めなしだったのですが、待っている間はプレッシャーで本当にドキドキしましたね。
結局のところ、法人から個人へのお金の移転について常に税務署は目を光らせているので、いい・悪いは別にしてすべて確認するというスタンスは、ずっと変わっていません。
「過大役員報酬」や「過大な退職金」のように、どこまでが「過大」なのかを争われたケースが多いのは、その証拠です。
税務署も最近は、報酬で争っても分が悪いと思ったのか、生命保険に関わる話題が多くなっています。
いくら生命保険をかけても「過大な保険」と文句を言われる筋合いはないので、どうしたのかと言うと、保険金が支払われるとき、あるいは契約者変更などで契約形態が変わるときに、税務チェックを厳しくしたのです。
「低解約返戻金型」の長期平準保険を例に見ると、わかりやすいでしょう。
法人が保険料を納め、その一部が損金になる。
そして、しばらくの間は解約返戻金が小さくて、その間に社長が安く(解約返戻金相当額で)買い取ります。
そして1回保険料を払ったところで、解約返戻金がボンッと上がるわけです。そのときに解約すると、社長個人に大きなお金が入る、そんなしくみです。
ちなみに社長個人に入ったお金は、「一時所得」という形で所得税の申告をします。
このスキームは、いまの税法では何ら問題ありません。でも、税務署はこれを「まかりならん」ということにしたのです。
つまり、マジックのような形で会社から社長個人にお金を移すのは、現在は税法上適法であっても、常識的でないと言うか、奇をてらった考え方なのでおかしいでしょう、というスタンスです。
ある意味、「自分たち国税の考え方からすれば、こんなマジックのようなものは許されるはずがない」という思想ともとらえられます。
