急死した経営者、遺言書に「宗教法人への遺贈」を記載していたが…想定外の「相続税発生」に関係者一同大パニックの顛末【税理士が警告】

急死した経営者、遺言書に「宗教法人への遺贈」を記載していたが…想定外の「相続税発生」に関係者一同大パニックの顛末【税理士が警告】
(※写真はイメージです/PIXTA)

近年では、遺言書の作成が浸透してきました。しかし、思うままに作成すると、想定外の課税が発生するなどトラブルになるケースもあります。注意点を見ていきます。※本記事は、税理士・清野宏之著『社長の資産を守る本』(セルバ出版)から抜粋・再編集したものです。

亡くなったときの用意は、専門家も交えて周到に

◆死後の希望を実現するためにも、事前に準備もしくは調べておくことは必須

わたしのある知人が、コロナで急に亡くなってしまいました。

 

この人は、「自分が亡くなったときには、こうしてほしい」という自筆証書遺言を残していたのです。

 

これで大丈夫…と思った矢先、思わぬ事態が待ち受けていました。

 

遺言書で問題となったのは、相続人宛ての部分ではなく、お世話になった宗教法人へのお金の遺贈に関わるところだったのです。

 

亡くなったご本人は、遺贈の形で宗教法人へお金を渡したら、相続税が軽くなると思ったのかもしれません。

 

ところが調べたところ、この遺贈は相続税の対象になってしまうことがわかりました。

 

結局、いったん相続人へすべて相続させて、相続人が寄付する形で宗教法人にお金を渡すことになったのです。

 

相続税の対象から外れることはなく、相続税を支払ったあとのお金を寄付することになりました。

 

ご本人はよかれと思って遺贈の形にしたのでしょうけれども、やはり税の専門家によく確認しないと、思わぬことになってしまいます。

 

少々細かい話をすると、今回の遺贈が相続税の対象にならないためには、寄付したお金がどう使われるかを宗教法人に確認しておくべきでした。

 

◆餅は餅屋、税金のことは税理士に相談しよう

税法では、宗教法人が会館などの、皆さんが使ってもらうような公益性のあるものをつくれば、国税庁長官の許認可を受けることで、税金がかからないようにすることも可能です。

 

でも、今回の場合はただの寄付なので、相続税の対象になるという判断になりました。

 

わたしのところへご相談があったので、税務署へ聞いたところ、相続税の課税対象になることが判明したのです。

 

遺言書をつくる際は、事前に税務的へ適正かどうかを確認しないと、結果的に亡くなった人の意思とは違う形になりかねません。

 

事前にわかったので、結果的に相続人の人たちに追徴されることはなく、大事には至りませんでした。

 

多額の相続税がかかる額の寄付をそのままにしていたら、お世話になった宗教法人に大変なご迷惑をかける事態になったでしょう。

 

宗教法人の方も理解を示してくださり、「もともと、わたしたちが申し上げたことではなく、亡くなった方のご意思をお聞きしていただけなので、相続人さんたちにお任せします」と言ってくださったので、ことなきを得ました。

 

これは、調整も含めて非常に難しいケースでした…。

 

それなりの知識がある人でさえ、想定外のことが起こります。

 

また、お世話になったという気持ちはわかりますが、きちんと調べたうえで実行しなければ、関係者に対して思わぬ迷惑をかけることになってしまいます。

 

多額の相続税に加算金や追徴税がかかると、大きな負担になってしまいますので、注意が必要です。

 

ですから、税金は税金のプロに確認し、シミュレーションを行ったうえで財産分けを決めていかなければ、怖いことになりかねないことを知っておきましょう。

孤独にならない、孤独にさせない

◆残念な事例から思うこと

コロナの3年半の間は、さまざまなことがあったのですが、ひとつ残念だった出来事をお話しします。

 

以前に資産税のご相談をいただいた方が、急にお亡くなりになったのです。コロナでお会いできず、訃報の知らせもかなり時間が経ってから届きました。

 

これはわたしの自戒も込めた話なのですが、会えなくても電話はできますし、メールで連絡をとることもできます。

 

「お元気ですか」

「お変わりありませんか」

 

といった連絡は、こまめにしていかなければいけないと思うに至りました。難しい税法の話も大事ですが、孤独にさせないことも非常に大切ではないでしょうか。

 

◆人と会えないときでも、「窓」を開けておこう

亡くなってしまった方は、高齢だったので、オンラインツールに精通していなかった可能性もあります。でも、本連載の主な読者である社長の方々は、ほとんどがパソコンを駆使していますよね。

 

オンラインの面談ツールも使っているでしょうから、直接お会いできない事態になっても、コミュニケーションをとることはできます。

 

それが、何よりも大切なのではないでしょうか。

 

わたしの事務所も、会社の社長たちに、月1回『KIYONO通信』という手書きのものをファックスでお送りしています。

 

決して特別な内容ではなく、「皆さんお元気ですか」といったことを書いたものです。

 

「いつでも相談できる窓は開いていますよ」といったスタンスでいるのが、大切なことなのです。

コロナで感じた「命のはかなさ」を忘れない

◆順調なときほど、ライフプランを考えて最悪の事態への備えを

実際のところ、コロナで人と会えない時期に社長がどんなことをされていたのかと言うと、社内の規定などの取りまとめをしている方が多く見られました。

 

やはり、多くの社長は、会社のことを一生懸命に考えるのですね。

 

一方で、社内をこうしよう、人事をこうしよう、というように会社のことを最優先で考える社長はとても多いのですが、ご自身のライフプランを考えている社長はちらほら…という印象でした。

 

高齢になっても、社長ご自身やご家族のことは二の次、という傾向はあまり変わっていなかったのかもしれません。

 

一方で、「人はいつ亡くなるかわからない」といったことがリアルになったので、気持ちのうえではいままでと違う感情も生まれた可能性はあります。

 

まわりで知人が急に亡くなったとき、コロナだったという噂は入ってきます。わたしの知人の税理士が亡くなったときも、「あの人、倒れて2日で亡くなったから、コロナでしょうね」という話が入ってくるわけです。

 

「え? 人ってこれほど簡単に死んでしまうんだ」と思ってしまうような話を聞いたとき、社長の皆さんはどう思ったでしょう?

 

いま社長が亡くなったら会社はどうなるのか、という話もあったのではないでしょうか。

 

コロナで感じた人の命のはかなさを教訓として、もしご自身に万が一のことがあったら会社はどうなっていくのかを見据えて経営していこうという思いは、多くの社長が感じたはずです。

 

もちろんわたしも、そう感じました。

 

一方で、コロナでもっと景気が悪くなると思ったところ、意外に儲かった会社も少なくありません。

 

でも本来は、儲かっているときほど、会社のことだけではなく個人的なことも含め、ご自身が亡くなってしまったときのことを考えるべきなのです。

 

 

清野 宏之
税理士・行政書士、清野宏之税理士事務所所長

 

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※本記事は、税理士・清野宏之著『社長の資産を守る本』(セルバ出版)から抜粋・再編集したものです。

社長の資産を守る本

社長の資産を守る本

清野 宏之

セルバ出版

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