子どもと孫に恵まれた「幸せな日々」に潜む落とし穴
Aさんには娘と息子がいます。それぞれが家庭を持ち、孫は総勢5人。どちらの家族もAさんの家までは車で1時間以内の距離。家族みんなで頻繁にAさんの家に遊びに来ていました。
そんなときには、物価の上昇や家計のやりくりなど、お金の話も自然と出ます。現代は何かと物入りな時代。困っているなら助けてあげたいという親心が働きました。また、孫と出かければ服を買ったり、お小遣いをあげたり。「じぃじ・ばぁば」としてお金を出すことも当たり前に。
直接「お金を出してほしい」と娘や息子が頼んできたわけではありません。ただ、ちょっとした会話の端々から「旅行に行きたいのかな」「塾代がかさんでいるのかな」「私たちがもっと年をとったら迷惑をかけるかもしれない。今のうちにできることはしてあげたい」そんなことを考えて、気がつけば自然に財布の紐が緩んでいたのです。
もちろん相手が子どもや孫となれば、一度きりでは終わりません。何度も繰り返すうちに出費は増えていきました。
こうした支援は、多くの場合、老後資金の予算に組み込まれません。いわばブラックボックスになりやすく、支出の総額が本人すら把握しきれなくなってしまうのです。一つ一つはそれほど大きな額ではなくても、積み重なると驚くほどの金額に膨れ上がります。
子どもの住宅購入の頭金援助、車の購入援助、孫の進学・習い事費用・お小遣い、レジャーや生活費の支払いなど。気が付けば、Aさん夫妻が長年かけて築いた老後資金は大きく減ってしまっていたのです。
この支出はAさんが65歳で完全リタイアしても続きました。年金は夫婦で月22万円ほどで、仕事をしていた時と比べれば、収入は当然激減。夫婦の生活費だけでも月数万円を貯金から取り崩し、退職後のお楽しみとして夫婦の旅行、レジャーといった支出も。その結果、どうなったのかといえば……。
「通帳をいくつかに分けていて、私も妻もトータルの残高をちゃんと確認していなかったんです。心のどこかで『こんなに使って大丈夫か』と思いつつ、現実を見ていなかったところもあります。改めて計算してみたら、恐ろしいことになっていて、夫婦で大騒ぎになりました」
69歳になったAさんは、こう肩を落とします。10年足らずで2,800万円あったはずの預金は、今や1,500万円台に。このままのペースでは、そう遠くないうちに貯金が底をつくことが明らかになりました。
